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【契約書の罠】遥の撮影:vol.1(序章)
▶ 選んで結末が変わる物語(全57話・7結末)
都内の閑静な住宅街にある、古びた雑居ビルの一室。
その冷たい鉄の扉の向こう側が、自身のささやかな平穏を完全に破壊する蟻地獄だとは、この時の遥は微塵も疑っていなかった。
彼女は、ただ普通の大学生活を送りたかっただけなのだ。
幼い頃から真面目で、他人に迷惑をかけることを何よりも恐れる性格。
都内の文学部に通う大学生であり、派手な交友関係やサークル活動とは無縁の、アルバイトと図書館の往復を淡々と繰り返す日々。
恋愛経験も乏しく、男性に対しては本能的な警戒心を抱いていた。
自分が未経験の処女であるという事実をことさらに隠すつもりはなかったが、それを打ち明けるほどの親しさを持つ相手など、彼女の世界には存在しなかった。
男が怖い――という、漠然とした恐怖感に近い感情。
それが彼女の心の底には常に横たわっていた。
しかし、現実の生活は容赦なく彼女の財布を削っていく。
親からの仕送りは少なく、教材費や日々の食費を切り詰める生活には限界が来ていた。
そんな遥が、とある日、学内の目立たない掲示板の端で見つけた一枚のアルバイト募集のチラシ。
それが全ての歯車の狂い始めだった。
「清楚系イメージモデル募集」
「学生・未経験歓迎、顔出しなしも応相談」
「交通費全額支給、日給3万円」
──3万円。
スーパーの特売日を狙って数十円の節約を重ねている遥の目に、その金額は魔法のように魅力的に映った。
「清楚系」という言葉が、彼女の警戒心を巧みに解いた。
水着程度の撮影なら、大学の友人たちもSNSに平気でアップしている。
その程度のモデルなら、自分でもできるかもしれない……。
自分に都合の良い言い訳を並べ、震える指でチラシのQRコードを読み取り、応募フォームを送信した。
返信は、不気味なほど早かった。
その日のうちに面接の日程が決まり、遥は指定されたこの雑居ビルの小さな撮影スタジオへと足を運んでいた。
「はじめまして、遥さんですね。お待ちしていました」
応対した男は、柔らかい物腰と清潔感のあるスーツ姿だった。
スタジオの中は機材こそ置かれているものの、白を基調とした清潔な内装で、怪しい雰囲気は一切なかった。
「遥さんなら、うちの企画にぴったりだと思いますよ。清楚で、透明感があって。私たちが探していたイメージに、まさに合致しています」
言葉を褒められ慣れていない遥は、耳の裏まで赤く染めながら小さく頷いた。
男への恐怖心よりも、まさか地味な自分が選ばれるとは――という、小さな安堵と高揚感が勝っていた。
「こちら、本日の撮影に関する契約書になります。一応、形式的な基本的な取り決めでして……サインだけお願いできますか?」
男が机の上に滑らせたのは、文字がびっしりと並んだ一枚のA4用紙だった。
緊張と慣れない環境のせいで、遥の視界は文字の上を上滑りしていく。
『第5条:現場の演出・指示に完全同意すること』
『第8条:自己都合による途中辞退は、違約金として50万円を請求する』
その致命的な文言が、ひときわ目立たない小さなフォントで紛れ込んでいることなど、彼女は気づきもしなかった。
「何か不安な点があれば聞いてくださいね。でも基本的には、こちらで用意した衣装や演出に問題がなければ大丈夫ですから」
男の優しい声色に急かされるように、遥は深く読み込むことなく、震える手でボールペンを握り、自分の名前を記入してしまった。
なにせ「清楚系イメージモデル」と書かれていたのだ。
まさか自分が、あんな過激で恥知らずな行為を強要されることになるとは。
この時の彼女は、疑うことすら思いついていなかった。
そして、面接からそのまま「テスト撮影」へと移行した瞬間。
男の表情から、先ほどの柔和な笑みが完全に消え失せた。
「じゃあ、これに着替えてください。あっちが更衣室なんで」
ぽいっ、と無造作に机の上に投げ出された衣装。
それを見た瞬間、遥の思考は完全に停止した。
用意された衣装は、遥の常識を軽く超えていた。
純白の、透けるほど薄いレースの下着。
ブラジャーの布地はほんのわずかで、乳首を隠せるかどうかのギリギリの面積しかない。
ショーツに至っては、下着というよりもただの紐の集まりに近い形をしており、クロッチ部分には信じられないほど細い布きれが宛てがわれているだけだった。
「……あの……これ、清楚系……ですか……?」
遥の声は、恐怖でかすれ、激しく震えていた。
一歩、また一歩と後ずさる。
だが、男は冷酷な目で彼女を見下ろした。
「大丈夫、演出ですから。……演出に同意いただいた契約書、さっきご自分でサインされましたよね?」
その言葉に、遥の背筋に氷のような悪寒が走った。
「……え……? 契約書……?」
「もし今キャンセルされる場合、違約金が発生してしまいます。こちら、読んでいただいた契約書の第8条にも記載されてますよ。……50万円」
「っ……!!」
遥は、声にならない悲鳴を飲み込み、完全に言葉を失った。
50万円。
奨学金を借り、食費を切り詰めている大学生の彼女にとって、それは絶対に、どうあがいても払えない絶望的な金額だった。
「む、無理です……っ……そんな大金……」
「なら、着替えて撮影するしかないですよね。簡単な仕事ですよ。ちょっと布の少ない服を着て、カメラの前でポーズをとるだけですから」
男の目は、完全に獲物を追い詰める捕食者のそれだった。
後ろには屈強なスタッフが立ち塞がり、重い防音扉が『ガチャリ』と音を立てて施錠された。
逃げ道は、どこにもなかった。
「……誰か、助けてください……家に帰してください……っ」
極限の恐怖と混乱の中で、遥の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
だが、男は容赦なく彼女の腕を掴み、更衣室と書かれた狭いパーテーションの裏へと押し込んだ。
「ほら、早く着替えて。時間がもったいないんで」
冷たい声が響く。
狭い空間に閉じ込められた遥は、力なく震える手で、自分の着ているブラウスのボタンに手をかけた。
「ひぐっ……っ……うぅ……っ……」
惨めな嗚咽が漏れる。
ひとつボタンを外すたびに、自分の尊厳が削り取られていく感覚に襲われる。
誰にも見せたことのない純潔な肌を、あんな破廉恥な紐のような下着で晒さなければならない。
ブラウスが床に落ちる。
次に、スカートのホックに手をかける。
涙で視界が滲み、指先が思うように動かない。
「……いや……お願い、もうやめてください……っ」
だが、脳裏には「50万円」という絶望的な数字が重くのしかかっていた。
親に頼ることもできず、警察に駆け込んでも『自分で契約書にサインした』という事実が彼女の口を塞ぐ。
スカートが足元に滑り落ち、普段着けている地味な綿の下着姿になる。
それを脱ぎ、渡された極小のレース下着を身につけなければならない。
ブラジャーをつけると、その布地の少なさに羞恥で顔から火が出るかと思った。
乳首の先端が硬く張り詰め、薄いレース越しに完全に形を透けさせている。
続いて、紐のようなショーツを引き上げる。
「あ……っ……うぅ……」
食い込むような細い紐が、彼女の秘部の割れ目に直接触れ、慣れない摩擦に肩が跳ねる。
ほとんど何も穿いていないも同然だった。
下腹部の恥ずかしい部分が、薄いレース一枚を隔てて外気に晒されている。
パーテーションから出ると、男たちの品定めするような視線が一斉に彼女の露出した素肌に突き刺さった。
両腕で必死に胸元と股間を隠すが、そんな抵抗は虚しいだけだった。
「いいじゃないですか。すごく似合ってますよ。……さあ、そこのベッドに横になって」
スタジオの中央に用意されていたのは、真っ白なシーツが敷かれたベッドだった。
照明がギラギラと照りつける中、遥は足を踏み外すようにしてベッドへと向かう。
彼女の「普通の生活」は、この瞬間、完全に終わりを告げたのだった。
ここから始まるのは、ただひたすらに羞恥と屈辱に塗れた、地獄のような撮影の連鎖。
逃げ場を失った彼女の運命は、すでに男たちの掌の上で転がされていた。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。




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