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契約書の罠、遥の撮影(二人にかかる毒牙:キワドイ水着)vol.2
蛍光灯の白い光が、薄明のスタジオに静かに降り注いでいた。
まるで無機質な冷気のように、皮膚の奥へと染み込んでくる光だった。
その光の下で──遥は、まるで時間が止まったかのように、控室の片隅に立ち尽くしていた。
肩を寄せ合うようにして、隣にいる綾香もまた、同じ表情を浮かべていた。
震える指先。
かすかな呼吸の音。
肌を撫でる不安の風──
二人の間に言葉はなかった。
けれど、手の温もりだけが、まだここに「心」があることを教えてくれていた。
──「演出に同意すること」──
それは契約書のただの一文に過ぎなかった。
遥も綾香も、深く考えたわけではなかった。
「清楚系イメージビデオ」という言葉を、どこか安心材料のように受け止めていた。
露出は控えめで、雰囲気重視──
それが、最初に聞かされていた話だった。
だが──現実は、あまりに異なっていた。
「遥ちゃん、綾香ちゃん。こっち来て。水着に着替えて」
そう呼びかける声が響いた瞬間、スタジオの空気が変わった。
まるで酸素が奪われるように、息苦しさが押し寄せてくる。
その男──ひろし。
撮影ディレクターと名乗る男の目は、演出家のものではなかった。
それは、支配者の目。
抗えない権力の目だった。
差し出されたビニール袋を受け取ったとき、遥は思わず息を飲んだ。
中に入っていたのは、布切れ──と呼ぶことすら躊躇うほど、あまりに頼りない水着。
上は三角形の布に細い紐。
下は……布というより、ただの細い紐。
「……これは、違う……聞いてた話と違います……」
唇を震わせながら、遥は声を絞り出した。
だが──
「契約書、ちゃんと読んでるよね?」
ひろしの声は冷たくも穏やかで、しかし一切の逃げ道を与えない響きを持っていた。
「“演出に同意すること”──それが俺たちの自由を保障してるんだ。
清純派からのギャップ、それが今の需要。わかるよね?」
遥の喉が、ごくりと音を立てた。
隣にいる綾香が、そっと遥の手を握る。
彼女の顔は青ざめ、声はかすれていた。
「イヤ……やだよ、遥……こんなの、できないよ……」
遥の心もまた、ぐらりと揺れていた。
けれど──
頭に浮かんだのは、契約書の最後の一文。
「契約破棄の場合、違約金として一千万円を請求するものとする」
それは、普通の女の子にとっては現実的すぎる金額だった。
夢を叶えるために、小さな希望を胸に抱いてこの世界に足を踏み入れた彼女たち。
だが今、その小さな夢は、鋼鉄の檻となって彼女たちを縛っていた。
──着替えるしか、ない。
遥は袋の中を見つめながら、震える手で水着を取り出した。
だが、着替えようと壁の方へ背中を向けたとき──
「いや、ここでいいよ。カメラは回ってない。まだ“演出”中だから。
自然な恥じらいが、いい演出になるからさ」
その声に、遥の背筋がぞくりと震えた。
肌の内側を爪で撫でられるような、悪寒が走る。
それでも──彼女は、脱ぎ始めた。
ブラウスのボタンを、ひとつずつ外していく。
冷たい空気が肌に触れるたび、筋肉がこわばる。
下着姿になったとき、綾香もまた震える手でスカートを脱いでいた。
そして、ひろしは……薄く笑った。
その視線が、遥の肌に突き刺さる。
──いやらしい目。
──でも、逃げられない。
遥は水着の三角布を手に取り、恐る恐る胸に当てる。
あまりにも小さな布が、かろうじて乳房の先端を隠すだけ。
「もう少し、ひもを緩めて」
ひろしの指示に、遥は戸惑いながら紐を緩めた。
その手元に、ひろしの手が重なり、さらにわずかに紐を下げる。
布の下端から、うっすらと乳首の色が透けた。
綾香はその光景に唇を震わせ、両手で胸を隠すようにして立ち尽くしていた。
「……いやぁ……っ、見ないで……ひろしさん……っ」
「いや、見てるんじゃない。演出してるんだよ。
君たちが今どんな顔してるか──それが、一番大事なんだ」
遥は綾香の手を、ぎゅっと握り返した。
裸同然の姿で、ふたりはカメラの前に立たされる。
照明が灯る。
ひろしがゆっくりとカメラを構える。
だが──まだシャッターは押されない。
その沈黙が、なによりも怖かった。
「じゃあ──ちょっとポーズ取ろうか。胸を寄せて、腰を少し突き出して」
その指示に、遥は一瞬、耳を疑った。
だが、ひろしの目は本気だった。
綾香が遥を見た。
「助けて」と言いたげな目。
けれど遥も同じだった。
叫びたいのは、自分の方だった。
二人は、ぎこちなく身体を寄せ合う。
胸が触れ合い、腰を突き出す。
肌と肌が、密着する。
緊張で、呼吸が浅くなる。
心臓の鼓動が、内側から響く。
カメラの前で──裸同然で──
ひろしの視線が、全身を舐め回す。
なぜ、こんなことに……
その問いは遥の胸の奥に沈んだまま、返ってくることはなかった。
もう、彼女たちは“演出”という名の現実に飲み込まれていた。
ひろしの指が、シャッターボタンを押す。
カシャ──という音と共に、遥の頬を涙が伝った。
けれど、もう後戻りはできない。
契約という名の檻の中で──
遥と綾香は、ゆっくりと、静かに落ちていく。
恥と羞恥、快楽と恐怖の狭間で、
かつての純粋だった自分が、じわじわと溶けていくのを感じながら。
「──これが、演出だよ。遥ちゃん。綾香ちゃん。
君たちには、きっと才能があるよ」
その声だけが、冷たく、スタジオに響いていた──
隣人が有名配信者の日常
385円

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