車内、静寂のなかで──心が崩れる音がした
車内には波音だけが、遠くから静かに流れ込んできていた。
寿子の震える肩を、課長の腕がそっと包む。
「何も心配するな」
その声は、優しさと哀しみが混ざり合ったような響きだった。
寿子はこくりと喉を鳴らし、何かが堰を切ったようにぽろぽろと涙を零す。
課長の胸に頬を寄せ、やわらかく震える指で、彼のジャケットの布を掴んだ。
ふいに、課長の唇が寿子の額に触れる。
やさしく、包み込むように。
そして──唇が、そっと彼女の唇に重なった。
温かい。
怖くない。
けれど……。
寿子の視線がふと下に落ちる。
膝のあたりにある課長のスーツの生地が、わずかに盛り上がっている。
……膨らみ。
それを見て、寿子は身体の芯がきゅっと縮むのを感じた。
羞恥。戸惑い。
けれど、その奥に、抗えない衝動。
私は、もう──。
寿子の心が、ぽつりと声を漏らした。
「もう……私は、戻れないの」
誰かに穢され、操られ、壊された身体。
それでも、今、自分の意思でこの胸に触れている。
逃げたくない。
もう、誰のせいにもしたくない。
寿子はそっと、課長の腿に手を伸ばす。
課長が何かを言いかけたが、その指先に息を呑み、動けなくなる。
やがて寿子の指が、ベルトにかけられた。
音を立てて、バックルが外れる。
チャックを、すぅ……と下ろす音。
車内の空気が変わる。
波の音も、遠くなる。
寿子の指が、熱を帯びた膨らみをそっと撫でる。
震えながら、しかし確かにそこに触れている。
「課長……」
声はか細く、けれど、決意がこもっていた。
スーツの隙間から現れたものに、寿子は息を止めた。
指先が、ゆっくりとその輪郭をなぞっていく。
それは、知らなかった感触。
警備員のそれとは違う。
冷たさも、暴力もない。
ただ、温かくて、脈打っている。
寿子の頬が、ふっと染まる。
唇が近づく。
自らの意思で、その形に触れていく。
「あたし……怖いのに、……したくなってる……」
震えながら、寿子の舌が、先端をそっと包む。
課長は呻くような声を漏らし、シートの背に沈む。
寿子は目を伏せたまま、口元だけが静かに動いていた。
過去の屈辱。
見られていた恥。
晒された映像。
全部、消えない。
でも今、この時間だけは──自分のもの。
愛撫はゆっくりと、そして、深くなっていく。
ぬめる舌の動きが、愛おしさと恥ずかしさを塗り重ねるように繰り返される。
そして寿子の口元から、くちゅっという音が微かに漏れる。
強引でも、命令でもない。
課長の手が震えながら彼女の髪に添えられた時、
寿子は心の奥で小さくつぶやいた。
「私……愛されたいのかな……」
課長の指が、寿子の頬を包み、唇に触れる。
波の音。
熱い吐息。
車内に響くのは、静かで、熱をはらんだ音だけだった──。


コメント