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オフィスレディーが堕ちる夜―純愛か絶望か・・・(ゆっくり、経緯を最初から話し出す)vol.38

OL(オフィスレディー)
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涙の夜、すべての始まり――寿子の静かな告白

海辺の駐車場

課長の車のなかで
寿子は、沈黙の波間に小さな声を浮かべた

目の奥に涙が残り、
手のひらは冷たく濡れていた

外では、冬の波音が優しく響いている

課長はただ、静かに寿子を見つめていた
急かすことも、遮ることもなく

寿子は深く息を吸い、
少しだけ顔を上げて、
言葉を探しはじめる

「……課長……」
「私、どうしてこんなことになってしまったのか……」
「少しだけ、最初から……お話してもいいですか……?」

課長は静かにうなずく

寿子は、
膝の上で手を組み、指先を見つめながら
ぽつりぽつりと語りはじめた

「――あの日、残業でコピー機の前にいたんです」
「ちょっと、緊張してて……でも、どこか心細くて……」

声は細く震えていた

「課長がすぐ近くにいて……
私……なんだか、すごく安心してしまって……
自分でもどうしてか分からないんですけど……
思わず、背中から抱きついてしまったんです……」

恥ずかしさに頬が赤くなる

「ほんの一瞬でした。
すぐ、離れたんです……
だけど……」

寿子の瞳が、不安に曇る

「……それを……
誰かが見ていたみたいで……」

波の音が、さらに静かになったように感じる

「しばらくしてから……
机の上に、小さな紙切れが置かれていて……
“あのときのこと、全部見ていた”って……
“もし、黙ってほしかったら、今夜この場所に来てほしい”って……」

寿子の声は、
ますます小さく、苦しげに

「最初は、冗談かと思いました……
でも、家のポストにも手紙が入っていて……
“課長や、会社中に知られたくなかったら、言うことを聞け”って……」

「……怖くて……
誰にも相談できなくて……」

寿子は涙をぬぐう

「最初は、ただ……
謝れば許してもらえるんじゃないかって思ったんです」

「でも、呼び出された先で……
“全部、録画してる”とか、“課長にバラす”って……
いろんなことを言われて……
どんどん、断れなくなっていきました」

言葉を選び、
できるだけ柔らかく、
けれど、真実から逃げないように

「最初は、ほんの少し、
誰かに抱きついただけだったのに……」

「そのあと、
“これもしなきゃいけない”“あれもしなきゃいけない”って
どんどん、エスカレートしていって……」

「誰かに相談したかったけど……
課長にも、絶対迷惑をかけたくなかった……
自分で、なんとかしなきゃいけないって思って……」

「でも、もう……
私ひとりじゃ、どうしようもなくなってて……」

寿子の指先が小さく震える

「課長……私、
ほんとうに、最初は……
誰かを困らせるつもりなんて、なかったんです」

「ただ、
見られたくなかっただけで……
課長にも、絶対に知られたくなかったのに……
こんな形で、全部……」

言葉が途切れ、
涙がぽろぽろとこぼれる

車のなかは、静寂に包まれていた

波の音が、ガラス越しに柔らかく届く

「……今も、どうしていいか分からないです……」

「もう、何もかも、元には戻らないんじゃないかって……
ずっと怖いです……」

寿子は、
自分の声が震えているのを感じながら、
勇気を振り絞って課長のほうを見た

「……ごめんなさい……
ごめんなさい……」

ただ、
それだけしか言えなかった

涙で曇る視界のなかで
課長の横顔だけが、静かに波音に溶けていた

沈黙の抱擁、波音に溶けるキス――心ほぐれる夜

寿子の声は、
涙で揺れていた

車内の空気が、
まるで冬の海の夜気そのもののように
冷たく、けれどどこか静謐な温度で満ちている

課長は寿子の告白を
最後まで黙って聞いていた

その横顔には
驚きも、非難も、
そして、何の要求もなかった

ただ、
深く、遠い場所から
何かをずっと受け止めようとする温かさがあった

寿子は、
もう声も出せず、
ひたすら涙をぬぐうしかなかった

鼻をすする音だけが
車内に小さく響く

しばらく――
ほんの数秒か、あるいはもっと長い時間か

ふたりのあいだには
沈黙が流れ続けた

波の音だけが、
変わらぬリズムでガラス越しに続いている

やがて――

課長が静かに、
何の言葉もなく
助手席の寿子の肩へ
そっと腕を伸ばした

その腕は、
寿子の背中をゆっくりと包み込む

寿子の身体は、
思わず小さく震えた

でも――
拒む力は、どこにも残っていなかった

ただ、
課長の胸のなかへ
流れるように身を委ねていく

やわらかな温もり

強くも、乱暴でもない
ただ、
壊れそうな心を
そっと支えてくれるような
静かな抱擁

寿子は、
胸元に顔を埋め
嗚咽まじりの息を重ねた

頬に、課長のシャツの布地が触れる

あたたかな掌が
背中をゆっくりと撫でる

無言のまま――
ふたりの間には
もう言葉はいらなかった

課長の心音が
静かに寿子の耳に伝わってくる

寿子は、
自分の心が、ゆっくりとほぐれていくのを感じた

涙は、
まだ止まらない

けれど、
今までとは違う

孤独や絶望、恐怖や羞恥――
それらの全てが
課長の胸の中で、
少しずつ、溶けていくような

そんな、柔らかな温度

しばらく
無言のまま抱きしめ合う

波音と心音だけが
車内の空気を満たす

やがて、
課長が、
寿子の耳元に、
ごく静かに囁いた

「……何も、心配するな」

その声は
まるで、冬の海辺に降る
優しい雪のようだった

寿子は、
はじめて小さくうなずいた

そして――

課長がゆっくりと顔を上げ、
寿子の涙に濡れた頬を両手で包み

ほんの少しだけ、
瞳を見つめ合う

海辺の夜に
二人だけの時間が止まる

そして――
ゆっくりと、唇が重なった

ためらいがちに
優しく、
ただ優しく

寿子の唇に、
課長の温もりが触れる

涙の味が、
唇に残る

だけどその一瞬だけは
全ての不安も絶望も、
夜の波音とともに消えていく気がした

寿子は目を閉じて、
課長の優しさだけを感じていた

キスは、
長くも短くもなく

ただ、
傷ついた心に
静かに寄り添うためだけのものだった

唇が離れる

二人は、
静かに、
互いの気配だけを確かめるように
沈黙のまま、肩を寄せ合っていた

窓の外には
冬の星がいくつか瞬きはじめていた

寿子の涙は、
静かに止まっていた

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