オフィスレディーが堕ちる夜:vol.37(海辺の車内と崩れ去った日常)

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オフィスレディーが堕ちる夜:vol.37(海辺の車内と崩れ去った日常)

「来てくれて、ありがとう。ごめんね、突然こんなところに呼び出して……」

ひろしの静かな声が、夕暮れの無人の駐車場に響いた。

遥は下を向いたまま、どうしても声が出せなかった。足が震え、今にもその場に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えている。

(……何を話されるんだろう。怒られるの? それとも、会社をクビになる? ……あんな汚い姿を見られたんだから、当然だよね……)

全身が氷のように冷たく、けれど変な汗がじわりと滲み出し、心臓の鼓動だけが耳の奥でごうごうと嫌な音を立てて鳴り響いている。

ひろしは少し離れた位置に立ったまま、深く息を吸い込み、しばらく言葉を探すように宙を見つめていた。

「……無理に、答えなくてもいいんだ。……ただ、ちょっと、話がしたくて」

遥は、どうしても顔を上げることができなかった。

目の前にいるこの男性は、遥のすべてを知ってしまった人だ。あの残酷な画面の向こう側で、自分が大勢の男たちに這いつくばり、前と後ろの穴を同時に貫かれて白目を剥きながら絶頂する姿を見た人だ。

純白だったはずの肌を無数の痣と唾液で汚され、暴力的な肉棒の突き上げに涙を流しながらも、自ら腰を振って射精を懇願する哀れな女の姿。決して誰にも見せたくなかった、いや、自分自身でも認めたくなかったもっとも破廉恥な姿を、尊敬する上司に隅々まで見られてしまったのだ。

極度の羞恥と絶望で顔が熱くなり、ぽろぽろと涙がこみ上げてくる。

静かな公園の気配。誰もいないこの空間で、遥とひろしだけが取り残されている。

「……大丈夫? ……今、とても辛いよね」

ひろしの声は、思いがけず優しかった。

だが、それが遥には逆に怖かった。軽蔑して怒鳴りつけてくれた方が、いっそ楽だったかもしれない。この優しい人が、腹の底では自分のことを「発情した女犬」と見下しているのではないかと思うと、全身がカタカタと震え、もう涙を止めることができなかった。

バッグの紐をちぎれんばかりにぎゅっと握りしめたまま、ただ、声を出さずに泣きじゃくり、立ち尽くしているしかなかった。

「車に乗ってくれ」

ひろしの静かな促しに、遥はうなずくこともできず、ただ車のドアの前に吸い寄せられるように歩み寄った。ドアを開けるカチャリという音だけが、駐車場の静寂に不自然なほど大きく響く。

助手席に腰を下ろすと、革のシートの冷たさが背中にじんわりと伝わってきた。

ひろしは何も言わず、ゆっくりとエンジンをかけ、ハンドルを握った。窓の外、夕暮れの光がゆっくりと滲んで消えていく。

車内は、重苦しい沈黙だけが支配していた。低く唸るエアコンの音と、タイヤがアスファルトを転がる単調な音。それ以外、何も聞こえない。密室となった車内で、遥の鼻腔をひろしの微かなコロンの香りがくすぐる。

ひろしはハンドルを握ったまま、前を向いて一度も遥のほうを見なかった。遥も、膝の上で震える手をぎゅっと組み、視線を窓の外の流れる景色に向けていた。

会話はなかった。ただ、痛いほどの沈黙だけが、ふたりの間に漂い続けている。どこに連れて行かれるのか、何を話されるのか。遥はただ、自分の異常に早い鼓動の音だけを聞いていた。

やがて、車はゆるやかな坂を登り始める。夕陽の残り香が、フロントガラス越しに遠ざかっていく。

海が見えてきた。冬の浜辺。冷たい潮風の匂いが、わずかに車内に入り込んでくる。車は、海を一望できる小高い駐車スペースに止まった。周囲には誰もいない。ただ、波の砕ける音だけが遠くで単調に繰り返されている。

ひろしはギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引いた。

しばらくの沈黙。遥は、自分の喉がカラカラに乾いていることに気づいた。口を開けて何か言おうとするが、声が全く出てこない。

そんな遥の横顔を、ひろしがようやく見つめた。

「……君が思うものは、見てしまった」

静かな、けれど、どこか苦しげな声だった。

「君が、あのようなことをする子とは思わなかった」

その言葉が、鋭い刃物のように遥の胸の奥にゆっくりと沈んでいく。

「……あっ……うぅっ……」

遥の頬に、新しい涙がとめどなく流れ始めた。

あの地獄のような密室で、容赦なく子宮の奥深くに大量の精液を流し込まれ、痛みと恐怖で頭がおかしくなりそうになりながら絶叫した夜。自分がどれほど無残に扱われ、その痛みに抗うことができずに堕ちていったか。あの悲惨な姿を、目の前のひろしに全て見透かされているという事実が、遥の心を完全にへし折っていく。

しばらく、ふたりの間にまた深い沈黙が降りる。波の音だけが、時折、ガラス越しに遠く響く。

涙は止まらない。やがて、遥は震える肩を抱きしめながら、深く息を吸い込んだ。小さな嗚咽が混じる。

震える指先を、スカートの上でぎゅっと握りしめる。もう後戻りはできない。全てを知られてしまった以上、隠すことなど何もないのだ。

「……かちょう……」

声はひどくかすれていた。

「……わたし、じぶんでも……どうして、あんなことになったのか、分からないんです……」

涙とともに、心の奥底に封じ込めていた感情が堰を切ったようにあふれ出す。

「怖くて……断れなくて……ずっと、誰にも言えなくて……っ」

言葉にならない嗚咽となって漏れる。男たちの圧倒的な腕力に押さえつけられ、無理やり足を広げられた恐怖。拒絶すればするほど激しく痛めつけられ、最終的には心が壊れて迎合するしかなかった自分の弱さと惨めさ。

「最初は……こんなこと、絶対にしないって思ってたんです……! でも……怖くて、逆らえなくて……どんどん、おかしくなって……っ」

遥は子供のように泣きじゃくりながら、ひろしの前で自分の罪を告白し続けた。弁解の余地などない。ただ、もうこれ以上自分を偽って生きていく気力すら残っていなかったのだ。

「気づいたら……もう、どうしようもなくなってて……っ」

濡れた頬を手の甲で乱暴にぬぐいながら、遥は深くうつむく。

「会社にバレたらどうしようって……誰にも知られたくなくて……でも、もう、止められなくて……っ」

いくら涙を流しても、過去の自分を取り戻すことはできない。純潔を失い、完全に男たちのオモチャに成り下がってしまった自分の肉体は、もう二度と元には戻らないのだ。

冷たい波の音だけが、まるで遥の人生の終わりを告げるかのように、絶え間なく静かにリズムを刻み続けている。

「私……もう、どうしていいか、分かりません……っ」

最後の言葉は、絶望の涙に完全に溶けて消えそうだった。もう、このまま死んでしまいたい。いっそこの冷たい冬の海に飛び込んで、すべてを終わらせてしまいたい。生きていても、もう誰にも信じてもらえない。誰にも愛されない。そんな絶望が、冷たい水のように足元から這い上がってくる。

重苦しい空気に満ちた車内には、しばらく彼女の痛々しいしゃくり上げる音と、重い沈黙だけが残った。

ひろしは遥の言葉を遮ることもなく、ただその小さな震える背中をじっと見つめていた。

そして、そっと長く息を吐くと、窓の外、夕闇に沈んでいく暗い海を静かに眺め始めた。彼の横顔からは何の感情も読み取れず、それが遥の恐怖をさらに煽る。完全に崩れ去ってしまった日常は、もう二度と戻らない。遥の心は、取り返しのつかない暗闇の中で、いつまでも音を立てて崩れ続けていた。

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