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【口淫申出】震える唇に、初めての熱
(……口なら……一番大事なものだけは……絶対に守れる……)
美琴の唇が、恐怖と極度の緊張でカラカラに乾いていた。その異常な乾き方に、彼女は自分の身体がこれから何をしようとしているのか、その絶望的な意味を逆に正確に悟ってしまった。
喉の奥が張り付き、声が出ない。それでも、このまま沈黙していれば、坂口は彼女が本番を選んだとみなし、机の上に押し倒してくるだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。
「……く、ち、で……」
一音、一音、血を吐くように絞り出すのに、心臓が肋骨を突き破りそうなほど跳ねた。掠れて、自分でも聞いたことがないほど弱々しい声。
それでも、その音は、人気のない放課後の進路指導室の、防音の壁の内側に確かに届いた。
「そうか。賢明な判断だ」
坂口はゆっくりと頷いた。頷きながら、彼は自分の椅子の背に身体を深く預け直した。両足を軽く開き、まるでこれから最高の特等席で映画でも観るかのような、傲慢で支配的な姿勢だった。
「なら、こっちに来い」
坂口が、自分の開いた両膝の少し手前の床を、顎でくいと指した。
美琴の足が、床に縫い付けられたように動かない。
分かっている。命じられたあの場所へ行けば、そこから先の道はたった一つしか無いことを。だが、動かなければ契約が成立しない。「一度だけで許す」という、あの卑劣な約束が始まらない。
彼女は、両手で白くなるほど握りしめていた机の縁から、まず右手を離した。次に、左手を離した。両手が、どちらも自分の意志とは無関係に小刻みに震えていた。
制服のプリーツスカートの裾を、彼女は両手でぎゅっと握りしめた。それだけで、綺麗にアイロン掛けされた生地に深く皺が寄った。
一歩。二歩。三歩。
足取りは鉛のように重く、足首には見えない鎖が繋がれているようだった。
坂口の膝の前まで、わずか五歩。その距離が、永遠に続く一本の処刑台への道のように感じられた。
進路指導室の、固く冷たいリノリウムの床。
学園都市第三位、超電磁砲が、その冷たい床の上に、ゆっくりと両膝をついた。
膝の骨が床に当たった音。カツン、と、微かで乾いた静かな音だった。だが、その音が、彼女の耳の奥では自分の尊厳が砕け散る雷鳴のように大きく、残酷に響いた。
(……膝……ついた……この男の足元に……)
その一動作の意味の絶望的な重さが、彼女の背骨を遅れて真っ二つに貫いた。
学園都市でもトップクラスの能力者が、ただの卑劣な成人男性の膝の前に、力無く跪いている。その惨めな絵柄そのものが、既に彼女の中の何か大切なものを粉々に砕いていた。
坂口の太い指が、スラックスのベルトの金具に掛かった。
カチャ、と、冷たい金属の音。ベルトが引き抜かれる乾いた摩擦音。ズボンの前ボタンが外され、ジッパーが下ろされる、生々しく下品な音。
(……見たくない……見たくない……)
美琴の視線は、彼の革靴の爪先辺りに辛うじて留まっていた。視線を上げれば、そこには決定的な現実がある。だが、坂口の指が下着の縁に掛かり、それを引き下ろすその動作までは、どうしても視界の隅に入ってきてしまう。
そして、彼がそれを完全に下ろした。
赤黒く膨張した男性器が、床に跪く彼女の顔の真正面に、無惨なほど暴力的に剥き出された。
(……なに……これ……)
美琴の呼吸が、そこで完全に止まった。
生まれてから十四年間、彼女は他人の、ましてや大人の男のそれなどを間近で見たことは一度も無かった。保健の教科書の無機質な断面図。ジャッジメントの講習で一瞥しただけの、記号的な知識。その程度のものしか、彼女の綺麗な頭の中には存在しなかった。
それが、今、目の前でグロテスクなほどの存在感を持って「生きて」いた。
ドクン、ドクンと脈打つ、太い血管の青緑色の筋。皮膚の、赤茶けたような生々しい熱の色。先端の、丸みを帯びた粘膜のいやらしい光沢。
そして何より、男の饐えたような汗と、皮膚の脂と、独特の不潔な匂い。
それが顔の距離まで迫っただけで、美琴の周囲の空気の密度が、泥水のように濁って変わった気がした。
(……こんな薄汚いものが……私の……口に……)
美琴の唇が、恐怖と極度の嫌悪感でガチガチと震えた。震えて、勝手に固く閉じようとした。
閉じれば、拒絶とみなされ、すべてが終わる。彼女は、震える下顎に渾身の力を込めて、それを無理やり開き直した。
だが、開いた口の中には何の準備も出来ていなかった。唾液は極度の緊張で完全に乾き切っていた。舌は恐怖で上顎に張り付いたまま動かず、喉の奥は既に強烈な拒絶の反射で細く絞まり、吐き気を催していた。
「近づけ、御坂」
坂口の声が、頭上から降ってきた。ただの命令。低く、静かで、絶対に逆らえない、あの冷酷な声。
美琴の両膝が、リノリウムの床の上をズルリと擦って、彼の開かれた両膝の間へと、這うように進んだ。
距離、二十センチ。十センチ。五センチ。
むっとする男の下半身の熱気が、直接顔に叩きつけられる。
極度のストレスで、指先の電磁波が暴れた。制御しきれない微弱な放電が、彼女の右手の指先で、パチッ、と青白い火花を散らして鳴った。すぐ横にあるパイプ椅子の金属脚に、電気が一瞬走る。
「おい。電気を漏らすなよ、御坂。お前が少しでも俺を痺れさせたら、その時点で契約は無しだ。即刻、審議会行きだぞ」
坂口の声が、その小さな火花を正確に拾い上げ、容赦なく脅しをかけた。
(……我慢……我慢しなきゃ……)
美琴は奥歯が砕けるほど強く噛み締めた。舌の付け根に力を込め、全身の電気の流れを、強靭な意識の鎖でぐるぐると縛り上げた。
学園都市第三位の、その誇り高き超電磁砲の力を、こんな薄汚い進路指導室の床の上で、男にしゃぶるために必死に封じ込めている自分が、彼女は情けなくて、惨めで、死にたかった。
「舌、出せ」
坂口の、二つ目の命令。
美琴は、小刻みに震える舌の先を、乾ききった唇の間から、ほんの少しだけ覗かせた。
「足りないな。もっとだ」
彼女は、屈辱で涙をボロボロとこぼしながら、更に舌を押し出した。上唇と下唇の間から、赤い、わずかに湿った舌の先が、無防備に突き出された。
「そのまま、俺の裏側に当てろ」
命令の意味を、優秀な頭脳は瞬時に理解してしまう。だが、身体は全く追いつかない。恐怖で首がすくむ。
美琴の震える舌の先が、ゆっくりと前へ伸び、彼のそれの、根元近くの裏側の脈打つ皮膚に、おずおずと、初めて触れた。
「……っ……」
生温かい。気持ち悪い。心臓の不気味な拍動が、薄い皮膚越しに舌先に直接伝わってくる。
饐えた汗の味と、皮膚の脂の生々しく不潔な味が、舌の先の敏感な味蕾を直撃した。
美琴の全身が、猛烈な吐き気と生理的嫌悪感で、反射的に後ろに飛び退こうとした。
だが、坂口の大きな片手が、既に彼女の栗色の髪の後頭部に置かれていた。強く掴んではいない。ただ、ズシリと重く置かれている。そこに圧倒的な暴力の圧力が存在しているだけで、彼女は一歩も後ろへ下がれなかった。
「そのまま、根元から先端に向かって舐め上げろ。焦らなくていい。ゆっくり、丁寧にだ」
命令。美琴は、震える舌の、その突き出した先端を、命じられた通りの軌道で、這わせるように動かした。
根元から、先端へ。極めてゆっくりと。
皮膚の微かな凹凸。血管の脈打つ不気味な隆起。舌の先が、その一つ一つを克明に拾い上げてしまい、脳に直接その感触を叩き込んでくる。
(……気持ち悪い……私……こんなこと……)
彼女の目から、恐怖と生理的な嫌悪の涙がとめどなく溢れ出し、視界をぐにゃぐにゃに歪ませた。
涙が頬を伝い、ポタポタと床に落ちる。
「先端まで来たら、そこを口の中に入れるんだ。いいか、絶対に歯は当てるなよ」
命令。美琴の下顎が、恐怖でカタカタと鳴った。震えたまま、それでも、彼女は口を大きく開いた。
開いて、坂口のそれの先端の、赤黒い丸みを、上下の震える唇で、恐る恐る包み込んだ。
先走りの、粘り気のある生温かい粘液が、彼女の舌の上に、ボトリと落ちた。
苦い。饐えた。錆びた鉄のような、ひどく生臭い味。
彼女の頬の内側の粘膜が、その未知の異物の味を拾って、防衛本能で勝手にきゅっと収縮した。
「んっ……うっ……」
短い、鼻を抜けた、細く苦しげな震えた音。それが、彼女の口から初めて漏れた、この行為における最初の絶望の呼気だった。
「もう少し、深く咥え込め。舌の根元の辺りまで届かせるつもりで、もっと奥だ」
命令。美琴は、涙で目を固く閉じた。閉じたまま、下顎を更に下へと落とした。口腔の奥へ、坂口の太い異物が、容赦なくズリズリと侵入してくる。
――喉の手前で、彼女の身体の反射が、限界を迎えて暴れた。
「うぇっ、ごっ……」
激しくえずいた。生理的な涙が、閉じた瞼の間から大量に押し出された。舌の根元が、異物を排出しようと激しく痙攣した。歯の裏側に、意識せず力が入りかけた。
「歯、立てるなと言ったはずだぞ」
坂口の太い指が、彼女の顎の下側にガシッと当てられた。ぐっ、と上へ向かって押し上げるように。強制的に口を閉じさせず、歯を当てさせないための、暴力的な圧迫。
美琴の涙が、顎を伝い落ちた。落ちた大量の涙と、口から零れ落ちた涎が混ざり合い、彼女の常盤台の純白のセーラー襟の上に、生々しく湿った染みをいくつも作っていった。
たどたどしい、舌の動き。異物で完全に塞がれてしまう呼吸。恐怖で噛みそうになる歯の震え。無理やり開かされ続ける顎の付け根の鈍い痛み。
その全部が、十四歳の彼女には初めて経験する、地獄のような感覚だった。全部が、彼女の清らかな世界観の完全に外側にあった。
(……下手……私……こんなに……)
自分が、この汚らわしい行為に何一つ追いつけていない、というその絶望感が、さらに彼女を惨めにさせた。快感など一ミリもない。ただ、圧倒的な暴力と不潔さに蹂躙されているという事実だけが、彼女の心を引き裂いていた。
「もっと、ゆっくりでいい。舌の裏側全体で、包み込むように吸い上げろ」
坂口の指示は、執拗に続いた。細かく。一つ一つ、粘着質に。
美琴は、その一つ一つに、ガタガタと震える身体と痙攣する喉で、必死に応えるしかなかった。応えなければ、契約が終わらない。応え続ければ、この地獄はいつか必ず終わる。彼女の中には、そのたった一つの細い希望の糸しか残されていなかった。
やがて、坂口の呼吸が、頭上で少しずつ変わり始めた。
深く、荒く。時折、抑えきれないような獣のような吐息を混ぜて。
(……変わった……息が……違う……)
美琴の恐怖が、そこで二重に膨れ上がった。このおぞましい行為が終わりに近づいているという微かな希望と、その「終わり」が一体何を意味するのかという未知の結末への恐怖の両方が、彼女の細い首を締め上げた。
「よし。……御坂、ここで一度、お前に選ばせてやる」
坂口の片手が、彼女の後頭部からゆっくりと離れた。もう片方の指は、まだ顎の下に強く当てられている。
「このまま、お前の頭を俺の手で掴んで、俺のペースで激しく喉の奥まで突かせて終わらせるか。
それとも、お前自身の意思で、俺を満足させるために頭を振って終わらせるか。選べ」
美琴の、涙でぐしょぐしょにぼやけた視界に、坂口の歪んだ愉悦の笑みだけが、ゆらゆらと悪魔のように揺れていた。息ができない。喉の奥に異物が詰まったまま、彼女は究極の選択を再び迫られていた。

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