時を止めた夜、駅の密室で――寿子への終わらぬ渇望
柏駅の夜風は、まだ少し冷たい。
トンカツ屋で賑やかに笑い合った部署のメンバーは、名残惜しげに駅前で別れの挨拶を交わしていた。
「課長! また来月も飲みましょうね!」
寿子が無邪気な笑顔で手を振る。(ああ、彼女のこんな顔を見ていると、全部忘れてしまいそうだ……)
ひろし課長は胸の奥に疼く想いを押し殺しながら、既婚者としての矜持を保とうと努めていた。
寿子は青のセーターに白いズボン、オフィスの喧騒を脱いだカジュアルな装いが、その屈託のない性格と相まってひろしの視線をどうしようもなく引きつける。
駅の改札、次々と吸い込まれていく同僚たちを見送った後、寿子は軽やかに踵を返し、トイレへ向かった。
「ちょっとトイレ……」小さく呟きながら、駅の多目的トイレの前で足を止める。
(ダメだ。抑えきれない。もう我慢できない……)
強烈な欲望がひろし課長の心を支配する。
今夜、酒も入って、抑え続けてきた理性が音を立てて崩れた。
その瞬間、世界が止まった。
誰もが動きを止め、寿子もトイレのドアノブに手をかけたまま、時の檻に閉じ込められる。
ひろし課長は寿子にそっと近づき、その柔らかな背中を抱きしめた。
青いセーターの上から感じる、ふっくらとした温もり。白いズボン越しの腰のライン。
時が止まっているはずなのに、彼女の匂い、体温、肌触りだけは鮮明に生きている。
(寿子……もう、ずっと我慢してきたんだ。こんなにも君を……)
罪悪感と背徳感がひろしの身体を駆け巡るが、その全てが渇いた欲望をさらに燃え上がらせる。
寿子の頬にそっと指を這わせ、身体をゆっくりと向き直らせる。
動かない瞳、しかしその奥に灯る明るさと、ほのかに上気した頬。
その唇に、自分の唇を重ねた。
濃密なキス。
青のセーターに隠された胸のふくらみが、ひろしの胸元に押し付けられ、柔らかな感触が全身に伝わる。
「ずっと、こうしたかった……」
囁きは空気の中に溶けていく。
寿子の手から、そっとスマートフォンを抜き取る。
(君のこの姿を、誰にも渡したくない。今だけは、僕だけの寿子だ……)
ひろしは彼女の顔、身体、服のシワまでも逃さず、シャッター音を響かせる。
時が止まっているはずなのに、興奮とスリルがひろしの全身を痺れさせる。
(誰にも見られない、誰にも邪魔されない。今夜だけは……)
寿子を抱え上げるようにして、多目的トイレの中へと運び込む。
その細い肩、腰、太もも、全てが鮮明に掌に焼き付く。
青のセーターの下にある柔肌を想像し、白いズボンの曲線を指でなぞる。
ドアが自動で閉まる音も、時の中に消えていく。
ひろしは寿子の髪を撫で、首筋に唇を押し当てる。
(動かない君が、逆に淫靡だ……美しい……)
何度も何度も、唇を重ねる。甘く、貪るように。
青のセーター越しに胸元を揉みしだき、ボタンの隙間から指を差し入れる。
(寿子の熱……柔らかさ……全部、全部、僕だけのものだ)
ズボンの生地越しに太ももを撫でる。
わずかな膨らみ、しっとりとした肌触り。
白い布地の間から覗く腰のラインに、ひろしの手が震える。
(ああ……罪だ、でも……止められない)
寿子の唇に再びキスを落とし、耳たぶ、うなじ、鎖骨へと舌先を這わせていく。
息遣いは静寂の中、ひろしだけが感じている。
寿子の身体は時の檻に囚われて動かないが、その生々しい温もりと甘い匂いは、ひろしの理性を完全に焼き尽くしていく。
彼女の胸、ウエスト、太もも、すべてを掌で確かめながら、
「寿子……君が欲しい、もっと……」
(ごめん、もう戻れない。こんなにも君を、愛してしまっている)
スマートフォンを取り出し、寿子の顔と自分の顔が映るように自撮りを重ねる。
唇を重ねたまま、シャッターを切る。
青のセーターと白のズボン、酔いと背徳感の混ざる甘い夜。
トイレの個室の中、身体を抱きしめ合い、キスを重ね続ける。
「時よ、このまま止まっていてくれ……」
寿子の身体を、あらゆる角度から観察する。
指先で髪を梳き、首筋をなぞり、ウエストを抱きしめ、脚線美を撫でる。
(どんなに見つめても、飽き足りない。何度触れても、足りない。もっと、もっと……)
トイレの静けさの中、ひろしは寿子に全身を重ね、唇を重ね、舌を絡ませ、
時間を止めたまま、何度も何度も欲望をぶつけ続ける。
—この夜、時間はふたりだけのために流れを止めた。
どこまでも深く、ひろし課長の欲望は寿子へと注がれていく。
青いセーターに白いズボン、明るく笑っていた寿子が、
今はひろしの腕の中で、永遠に閉じ込められたまま。
(寿子……もう、戻れない。君を、こんなにも愛してしまっている。)
時が動き出すその瞬間まで、
ふたりだけの「止まった夜」は、終わらない。


コメント