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【眠る妹への禁断の夜】兄の歪んだ衝動と睡眠薬の罠:vol.2(唇を深く重ねる)
ひろしの目が、遥の唇から離れられなかった。
睡眠薬とアルコールに沈んだ妹の体は、ソファの上で微動だにしない。規則的な呼吸が続いている。一吸い、一吐き、その繰り返しが深夜のリビングにかすかな生命の音を刻んでいた。白いブラウスの胸元が緩やかに上下するたびに、鎖骨の影が薄い間接照明の中で揺れた。
唇が、薄く開いている。
眠りの深さが、遥をそこまで弛緩させているのだろう。普段は固く結ばれているはずの唇が、今夜は力を失って、ほんのわずかな隙間を作っていた。その隙間から流れ出す吐息が、ひろしの頬に触れた。アルコールの甘い香りが微かに混じっている。それと体温。眠りの奥底から漏れ出てくる、妹だけの匂い。シャンプーの香りと、バイト帰りの微かな疲れと、眠りの熱が混ざり合った、この距離でしか知れない匂いだった。
ひろしは膝立ちのまま、その場から動けなかった。
考えが言葉になる前に、喉の奥で熱になって溶けた。
二十年間、一度も女の唇に触れたことがなかった。恥ずかしいと思ったことすらなかった。むしろ、恥ずかしいと感じる機会そのものが、最初から与えられていなかったというほうが正確かもしれない。女性と目が合えば、反射的に視線を逸らした。話しかけられれば、言葉が出てくる前に顔が赤くなった。バイト先で同年代の女性が隣に立っただけで、何も考えられなくなった。遥に対してすらそうだった。同じ家に住んでいるのに、まともに言葉を交わしたのがいつ最後だったか、もう思い出せない。
それでも遥のことを、ひろしはずっと見ていた。
目を合わせてもらえなかったから、視線が届かないところから見ていた。廊下を通り過ぎる後ろ姿。台所で何かを飲んでいる横顔。ソファでスマートフォンを見ている、ゆるやかに曲がった背中。そのすべてが、ひろしの内側に静かに積み重なっていった。いつの間にか、妹としてではない一人の女としての遥への感情が芽生えていたことに気づいたのは、いつの頃だったろうか。気づいたときには、もう取り返しのつかない深さになっていた。
今、その遥の唇が、手の届く場所にある。
ひろしはゆっくりと、音を立てないように身体を傾けた。
十センチ。
七センチ。
五センチ。
距離が縮まるほどに、遥の体温が皮膚で感じ取れた。眠りの中の人間が持つ熱がある。普段は絶対に近づけない距離。空気の質が変わる。遥の吐息が、今はひろしの唇にかかるほどの近さにある。アルコールの甘い香りが、鼻腔の奥まで染み込んでくる。
気づいたとき、すでに手は太ももの上で握りしめられていた。指先が痺れている。これほどまでに全身が緊張したのは、生まれて初めてかもしれなかった。心臓の音が耳の中で大きく響いている。何かが壊れる寸前の、あの感覚。
でも、止まれなかった。
ひろしの唇が、遥の唇に触れた。
その瞬間、思考が完全に止まった。
柔らかかった。
予想を百倍超えた柔らかさだった。こんなにも柔らかいものが存在するとは、想像すらしていなかった。アルコールで微かに熱を帯びた唇の表面が、ひろしの唇に馴染むように吸いついてくる。温かさが伝わってくる。遥の体温が、唇を通じて直接流れ込んでくるような感覚。それと同時に、遥の吐息がひろしの口元にかかった。生きているという事実が、こんなにもダイレクトに伝わってくるものだとは知らなかった。
一秒が、永遠に引き伸ばされた。
遥は動かない。まつ毛が震えることも、眉根が寄ることも、まだない。ただ眠り続けている。意識があれば絶対に許さないだろう接触を、今この瞬間だけは知らないでいる。
名前を心の中で呼んだ声が、体の奥で炎になった。
離れたくなかった。触れているだけでは足りなかった。この感触を、もっと深く確かめたかった。二十三年分の飢えが、たった一度の接触で限界を超えた。
角度を変えた。
唇の当たる位置をずらしながら、遥の唇の形を確かめていく。上唇の柔らかい膨らみ。下唇の厚さ。両端の細い皮膚の折れ目。すべてが初めてだった。すべてが、ひろしの中で灼けるような痕跡を残していった。それがどれほど歪んだ行為であるかを、頭の片隅でまだ理解しながら、それでも手が止まらなかった。
触れる力が、自然と強くなっていた。
吸い上げるように。貪るように。
粘膜と粘膜が密着する感触。唾液が絡み合う微かな粘着質の音が生まれた。静寂のリビングに、その音が溶けていく。ひろしの頭の中から言葉が消えた。ただ感覚だけがある。遥の唇のすべてを知り尽くしたいという、本能の奥底から湧き上がる衝動だけが残った。
遥の体が、ほんの少し動いた。
ひろしは息を呑んで動きを止めた。
しかし遥は目を開けない。呼吸を塞がれた違和感が無意識の生理反応を引き起こしたのか、眉根がほんのわずかに寄った。唇が微かに強張る。それだけだった。深い眠りの底で、身体だけが小さな抵抗を示したのだ。意識は、どこにも戻っていない。
ひろしは、再び動き始めた。
舌を、唇の隙間に押し当てた。
最初は抵抗があった。弛緩してはいても、唇の周囲の筋肉がわずかな圧力を返してくる。それでもひろしの舌は、ゆっくりと、確実に、遥の口腔の内側へと侵入していった。口の中は熱かった。柔らかい粘膜が舌の先端を包む感触に、全身の毛穴が開いた。
遥の小さな舌に、ひろしの舌が触れた。
その瞬間、ひろしの体から何かが抜け落ちた。理性の最後の一片が、燃え尽きて消えたのかもしれない。
口の中の形を確かめるように舌が動く。粘膜の熱を舌先に刻み込むように。唾液が混ざり合っていく。遥の唾液がひろしの舌に絡みつき、ひろしの唾液が遥の口腔に広がっていく。境界が曖昧になっていく。ふたつの体温が、口という一点で混ざり合っている。これが現実だとは、まだ半分信じられなかった。
遥の喉の奥から、低い声が漏れた。
夢の中から届いてきたような声。苦しそうで、微かな抗議の響きがある。しかし意識のある声ではない。眠りの奥底で、身体だけが何かに押しつぶされているような感覚に反応しているのだろう。小さな舌がひろしの舌を押し返そうと微かに動いたが、すぐに力を失った。
ひろしは、動きを止めなかった。
考えが形を失いながら、それでも確実に認識されていた。二十年間、遠くから見るしかなかった妹の中に、今、自分が入り込んでいる。これほど近くで遥を感じたことは、幼い頃の記憶にすらない。遥の体温が、口の中から全身に伝わってくる。妹の匂いが、吐息として肺の中に入ってくる。
一度唇を離した。
荒い息が出た。肩で息をしながら、遥の顔を見下ろした。
唇が、赤くなっていた。わずかに腫れ上がり、唾液で濡れて、間接照明の光を鈍く反射していた。眠ったまま、意識のないまま、ただそこにある唇が、たった数分でひろしが触れた証拠を滲ませている。遥は、それを知らない。
その事実が、ひろしの中で新しい熱になった。
遥の顎にそっと触れ、わずかに角度を変えてもう一度唇を重ねた。今度は最初より深く。ためらいが少し薄れていた。恐れの代わりに、灼けるような確信がそこにあった。この眠りの中の遥の口を、自分だけが知っている。誰にも奪えない秘密が、今夜この密室に生まれた。
「……遥……お前は、俺の女だ……」
掠れた囁きが、静寂に溶けた。返事はない。これから先も、ない。それでもその言葉を言い切ることで、ひろしの中の何かが確定した気がした。
唇から首筋へと、唇を這わせた。
白い肌に触れた瞬間、脈の振動が直接唇に伝わってきた。遥の心臓が、規則的に、静かに打ち続けている。生きている。眠っている。何も知らない。その脈動の真上に、ひろしは唇を強く押し当てた。吸い上げた。
白い肌に、じわりと赤い痕が滲んだ。
鎖骨の窪みへと唇を移した。舌先で輪郭をなぞる。アルコールで体温が上がっている遥の肌は、触れるたびに熱を返してくる。白いブラウスの生地に唇が触れると、その下にある柔らかさが透けて伝わってくる気がした。服の上からでも伝わる、微熱を帯びた肌の弾力。意識のない遥の細い体は、ひろしがどれだけ迫っても、ただされるがままだった。
欲望がさらに下へと向かおうとしていた。
時計の秒針だけが、変わらず刻み続けている。
両親は明日の夜まで帰らない。外は静かだ。深夜の住宅街は、すべて眠っている。ひろしの荒い息遣いと、遥の静かな寝息だけが、この密室に存在していた。キスひとつで、こんなにも何かが変わってしまった。遥は知らない。でもひろしの中では、もう取り返しのつかない何かが動き始めていた。
止まれる場所は、もうどこにもなかった。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。



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