翌朝のメッセージ――遥、制服のまま“次の指令”に揺れる朝
冬の朝――
曇った窓ガラスの向こうで、どこか遠くの列車がゆっくりと動き出す音が響いている。
遥は制服のままベッドの上に座り込んでいた。
昨日の夜、トイレの個室で味わった羞恥と快感の余韻が、
まだ太ももや喉元にじんわりと残っている。
まるで現実と夢の境界が曖昧なまま、
遥は布団を抱きしめて目を閉じる。
身体は重く、心はどこか遠く、
このまま時間が止まってしまえばいいのに――
そう願った。
しかし、
静寂を破るように、ベッド脇のスマートフォンが低く震えた。
遥はゆっくりと画面を覗き込む。
目の前に浮かぶ、ひろしからのメッセージ。
「エンコウが決まったぞ」
「今日はお楽しみだ、3人同時に乱交だ」
「もちろん撮影もするし、電動バイブも使う」
「お駄賃は3倍やる」
「18時、ホテル305号室」
「会社の制服で来い」
スクリーンの白い文字が、
遥の心に氷の刃のように突き刺さる。
全身の血の気がひいていく。
(三人……乱交……会社の制服……)
強い不安が心を締めつけ、
同時に、
昨日の快感と屈辱の記憶が、身体のどこかで疼く。
(いや、いやだ……もうやめて……
でも、無視したら……)
ひろしの最後の言葉――
「連絡を無視するなよ」
その命令が、昨日の夜の絶望とともに、遥の心を縛り続けていた。
両手で制服のスカートをぎゅっと握りしめ、
遥は膝を胸に引き寄せて小さく震える。
思い出すのは、個室で濡れた太もも、
道具を当てられ、声を抑えきれなかった瞬間。
今度は「三人」
撮影され、電動バイブで――
恐怖と羞恥が同時に押し寄せてきて、
呼吸が浅くなり、
制服の襟元に涙が滲んでいく。
(やだ……誰か助けて……
誰にも言えない……
でも、もう私――
ひろしの言う通りにするしか……)
遥はスマートフォンを握りしめ、
手のひらに冷たい汗を感じながら、
メッセージをひたすら読み返す。
「会社の制服で来い」
会社――
自分が今まで守ってきた「清楚で普通の自分」が、
すべて崩れていくような恐怖。
どこかで、「今なら断れるはず」という思いも浮かぶ。
でも、昨日のトイレで囁かれた脅し、
撮影された映像――
無視したときにどんな報復が待っているか想像しただけで、
遥の身体はすくみ上がってしまう。
ベッドの上で抱きしめていた膝が、かすかに震える。
(会社の制服……みんなにバレたらどうしよう……
三人の男に……道具を使われて……
それでも、
行かないといけないんだ……)
時計を見ると、
午前8時を少し回っていた。
遥はゆっくりと立ち上がり、
クローゼットのなかから会社の制服を取り出す。
手触りはいつも通り清潔で、
アイロンの線もまっすぐについている。
――なのに、
今日はこの制服が、
遥の「守り」ではなく、
新しい支配と屈辱の象徴に変わることを、
彼女は痛いほど自覚していた。
スカートをゆっくりと履き、
白いブラウスのボタンをひとつずつ留めていく。
指先が小刻みに震え、
襟元に手をかけると、涙が一粒こぼれる。
鏡に映った自分は、
どこから見ても「会社員の女の子」だった。
けれど、
この下に、
今夜また新しい「道具」と「男たち」の記憶が刻まれるのだ。
時間だけが容赦なく流れていく。
遥は心ここにあらずのまま、
制服の裾を整え、
バッグの中にハンカチとスマートフォン、
予備の下着まで忍ばせた。
(……本当に、行くの?
私、やめられないの?)
胸の奥で何度も問いかけるが、
答えはただ沈黙だけ。
正午を過ぎても、
遥は何も食べる気になれなかった。
家のなかを何度もぐるぐると歩き回り、
ベランダの外を見下ろしては、
現実感のない眩しい光に目を細める。
ひろしからのメッセージは、
そのまま既読のまま動かない。
だが、遥の心には、
「ホテル」「三人」「乱交」「電動バイブ」「撮影」
そのすべてが大きな重しのようにのしかかっていた。
やがて午後五時を回り、
外は薄暗くなってきた。
遥は鏡の前に立ち、
会社の制服のシルエットを最後に確かめる。
白い襟、黒いタイトスカート、
ストッキング越しの膝、
控えめな口紅。
どこを見ても、「普通」の女の子。
でも、その瞳だけが怯えている。
バッグを肩にかけ、
玄関のドアノブに手をかけたとき、
最後にもう一度、スマートフォンを開く。
「18時、ホテル305号室」
約束の場所と時刻。
遥は迷いながらも、
そっとドアを開けた。
――
外の空気は、夜の始まりを告げる冷たさだった。
ホテルまでは電車で数駅。
人の流れに紛れて、
遥は足早に歩く。
制服姿のまま、
ただの会社帰りの女の子に見える自分が、
今からどんな目に遭うか、
誰にも想像できない。
ホテルのロビーは静かで、
人影もまばら。
305号室へのエレベーターを待ちながら、
遥は唇を強く噛みしめていた。
(……本当に来てしまった)
エレベーターが到着し、
ボタンを押して、静かに閉じる扉。
(大丈夫、まだ何もされてない……
でも、逃げられない……
あの人たちに見られて、
道具を当てられて、
全部、映されて――)
階の表示がゆっくり変わり、
三階で止まる。
廊下を歩く足音だけが響く。
305号室の前で立ち止まると、
遥はもう一度だけ制服の襟元を握りしめる。
ノックの音が、
静寂のなかで大きく響いた――。
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