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【店長の脅迫】万引き一度の過ち:vol.36(制服のまま、絶頂と放心)
額を押し当てた壁の冷たさが、少しずつ遠のいていった。
視界の縁から白いものが滲み、洗面台の縁を掴む指から感覚が抜けていく。爪先立ちになった脚だけが、糸を引かれた人形のように細かく震えていた。
背後の息遣いが、荒く、短くなっている。背中に覆いかぶさる体温と、蕾に押し当てられたローターの低い唸りとが、皮膚の上で溶け合って、どちらの刺激なのか、もう区別がつかない。
ローターの振動は、蕾の一点から腰の骨を伝って、太ももの裏側にまで広がっていた。翅音のような細かな震えが、皮膚の下で、別の生き物のように脈を打っている。
遥は、いつからか爪先で床を探すのをやめていた。体重のほとんどを、洗面台の縁と、背後から差し入れられた腕に預けている。
洗面台の鏡の中で、髪を乱した娘が唇を噛んでいた。噛みしめた歯の隙間から、細い音が糸のように零れていく。
ひろしが髪を掴み、顔を鏡の正面へ向けさせた。
「見ろよ。制服を着たまま、そんな顔をしてる」
遥は目を逸らそうとした。髪を掴む指が、それを許さない。
潤んだ瞳。半開きのまま閉じられない唇。上気した頬。そこに映っているのが自分なのだと、認めるまでに、少し時間がかかった。
ローターの震えが、一段、強くなる。
内腿に力が入る。膝の裏が、ひどく熱い。呼吸が浅くなって、喉が細く鳴った。
ひろしの動きが、わざと遅くなった。浅く引いて、深く戻す。その間隔が、遥の呼吸を測るように、少しずつ広がっていく。
追い立てられるよりも、待たされることのほうが、ずっと苦しかった。身体の奥がその一拍を待ちわびていることを、遥は考えないようにした。考えてしまった瞬間に、何かが決定的に崩れる気がした。
「……っ……あ……」
喉から漏れたのは、言葉の形をしていない息だった。
下腹の底から、何かが競り上がってくる。
拒もうとするほど、それは輪郭を持ってせり出してきた。息を吸おうとした喉が、途中で詰まる。
背が弓なりに反り、掴んでいた縁から指が滑った。制服の白いブラウスが肩甲骨に張りつき、その下で背筋が大きく波打つ。
そこで、音が消えた。
瞼の裏が白く灼け、膝が折れかけたところを、背後から回された腕が乱暴に引き戻す。脚の付け根から熱いものが伝い落ち、太ももの途中で止まっている純白のショーツを、ゆっくりと濡らしていった。
数秒か、もっと長かったのか。時間の感覚が戻らない。
気づけば遥は、洗面台に額を預けたまま、肩で息をしていた。汗で貼りついた前髪の先から、雫がひとつ、白い陶器の上に落ちる。
やがて、遠くの音が戻ってきた。
換気扇の低い唸り。扉の向こうを通り過ぎる、買い物袋の擦れる音と、子供を呼ぶ母親の声。館内放送が、夕方のセールの開始を告げている。
壁一枚を隔てただけで、そこには何も変わらない休日が続いていた。
その平穏な音のひとつひとつに、縋りつきたかった。けれど声を上げれば、それは救いではなく破滅を呼ぶ。喉に押し込めた悲鳴が、胸の奥で行き場を失い、固い塊になって沈んでいく。
「一人で先に済ませるなよ」
ひろしの声が、汗に湿ったうなじに落ちる。
余韻が引ききらないうちに、動きがまた深くなった。ローターが蕾から離れ、代わりに片腕が腰へ回って、遥の身体を洗面台へ縫い留める。達したばかりで張り詰めた粘膜を、熱く硬いものが押し広げるたび、引きつれるような痛みと、それに絡みつく疼きが、代わる代わる押し寄せた。
遥は、小さく首を振った。
「……もう……いや……っ……お願い……やめて、ください……」
声は、自分の耳にも届かないほど細かった。
「やめてほしいのか。広場で、あれだけの人間に囲まれて達したくせに」
低い笑いが、うなじにかかる。
広場の光景が、瞼の裏に蘇る。冬の陽射し、風船を持った子供、ベンチの家族連れ。誰にも気づかれないまま、何度も膝を折りかけた数十分。その記憶と、いま背中に伝わる体温とが、同じ場所に重なって、区別できなくなる。
「あの顔も、全部撮ってあるからな。今さら、澄ました顔をするなよ」
耳朶に唇が触れた。
「静かにしろ。外に人がいるぞ」
言われて初めて、扉の向こうの足音に気づく。靴底が床を叩く規則的な音が、こちらへ近づき、扉の前で止まった。
息が、止まる。
取っ手に、誰かの手がかかる気配がした。だが、使用中を示す表示に気づいたのか、足音はすぐに離れていく。
その間も、ひろしは動きを止めなかった。ゆっくりと、深く、確かめるように。声を殺すために噛んだ遥の唇に、鉄の味が滲んだ。
洗面台の縁を探した指先が、濡れた陶器の上で滑り、爪が短く鳴った。体重を支えきれなくなった膝を、ひろしの腕が無理やり持ち上げる。
抵抗するだけの力は、もうどこにも残っていなかった。拒む言葉さえ、喉の途中で解けていく。それなのに身体だけが、続けざまに与えられる刺激に、遥の意思を置き去りにして応えつづけていた。
動きが、次第に短く、荒くなっていく。腰を掴む指が骨に食い込むほど強くなり、洗面台が小さく軋んだ。水栓の金具が触れ合って、かすかな金属音を立てる。
鏡の中の娘は、頬を赤く染め、濡れた睫毛を伏せて、ゆっくりと呼吸を繰り返している。ブラウスの胸元では、バイト先の名札が汗に濡れ、突き上げられるたびに、ささやかな音を立てて揺れていた。
「奥に出すぞ。ちゃんと立ってろ」
「……っ……や……」
最奥まで押し込まれたまま、肉棒が脈を打った。
「……っ、く」
腹の底へ、重い熱がゆっくりと流れ込んでくる。逃げ場のない一点に、他人の体温が満ちていく。遥は頬を壁に押しつけたまま、瞬きも忘れて、それを受け止めていた。精液の生々しい重みが、脈動のたびに深くなっていく。
自分の内側が、他人のもので満たされていく。その事実だけが、痛みよりも、余韻よりも、はっきりとした形で遥の中に刻まれていった。
脈動は、長く続いた。
終わったのだと理解するより先に、身体が反応を止めた。声も、震えも、呼吸さえも、一瞬だけ、どこかへ消える。
ひろしが身を引いた。塞がれていたものが抜け落ちる感触に、膝がとうとう折れた。
洗面台の縁に沿って、身体が崩れ落ちる。冷たいタイルが、めくれ上がったスカートの下の素肌に触れた。手から零れたローターが床を転がり、低い唸りを上げたまま、爪先の近くで止まる。
天井の照明が、白く、平らに視界を塗りつぶしていた。
涙で滲んだ照明の縁が、二重にも三重にも重なって揺れている。瞬きをすると、輪郭が一瞬だけ戻り、また滲んだ。
何かを考えようとして、考えるための言葉がひとつも浮かばないことに気づく。頭の中は洗い流されたように空白で、その空白の中を、館内放送の余韻だけが、遠く通り過ぎていった。
制服は、着たままだった。ブラウスは汗で背中に貼りつき、ひとつ外れたボタンの隙間から、上下する胸元が覗いている。プリーツスカートは腰まで捲れ、皺だらけの布の下で、太ももの内側を白く濁った熱が伝っていた。
留め具の外れた髪がひと房、頬に落ちている。それを払う手さえ、持ち上がらなかった。
床の上から見上げる視界は低く、洗面台の下の配管や、隅に溜まった埃までが、妙にくっきりと見えた。ほんの数分前までそこに立っていた自分が、遠い誰かのようだった。
絶頂の名残が四肢の隅に沈んだまま、起き上がろうとして、腕に力が入らないことを知る。指先が床の上で、小さく空を掻いた。
消毒液の匂いと、汗と、他人の体温の匂い。どれが自分の匂いなのか、区別がつかない。
床の冷たさと、腹の底に残る熱。二つの温度が、身体の外と内で釣り合わないまま、重なっている。
足首に触れたローターの振動に、脚が跳ねた。それでも、そこから逃げるだけの力は、まだ戻らない。
頬を、涙が横に伝って耳へ落ちる。泣いているという感覚は、なかった。
噛みしめていた唇の痕が、遅れて疼きはじめる。耳の奥では、自分の心臓だけが、まだ走りつづけていた。
換気扇の唸りに、ローターの低い震えが重なる。
壁の向こうでは、誰かの笑い声が遠ざかっていった。
背後で、金具の触れ合う小さな音がした。
遥はまだ、自分の呼吸の音しか聞こえていなかった。
ここまで読んでくれてありがとう
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