肌に触れる夜──言葉より先に、指先が語る
唇を離した直後の、微かな息。
熱を含んだ湿った吐息が、ふたりの間に漂う。
静かだった。
部屋の空調音だけが、鼓動の高鳴りと交差するように聞こえる。
寿子は、課長の腕の中で目を伏せたまま、
ゆっくりと胸を上下させていた。
彼のキスが深くなるたび、
身体が甘く痺れて、
心まで蕩けていくようだった。
「……もっと、触れてもいいですか……?」
囁くような声で、寿子が言う。
それは、恐る恐る出された許しの言葉。
課長は答えず、
寿子の肩にそっと手をかけた。
ゆっくり、慎重に。
驚かせぬように、彼はジャケットの襟を指先で摘み、
滑らせるように、寿子の腕から脱がしていった。
肩が露わになる。
薄いカットソー越しの肌が、空気に触れ、ほんのり粟立つ。
ひやりとした空気と、課長の指先が対比的に感じられ、
寿子は無意識に身を竦めた。
「……寒くないか?」
「だいじょうぶ……です……」
その声に、震えが混ざっていた。
寒さではなく、羞恥と期待が重なった、女の熱。
課長は、もう片方の腕からもジャケットを外し、
それをソファに置くと、
カットソーの裾にそっと指を滑り込ませた。
指の腹が、寿子の下腹部に触れる。
布越しに感じる温もり。
ゆっくりと、左右に開くように、
上へ、上へと持ち上げていく。
視線を交わす。
寿子は、顔を赤らめながら、うなずいた。
それだけで、
彼は迷うことなくシャツを捲り上げ、
彼女の頭の上を通して脱がせていった。
柔らかなブラが露わになる。
レースの白。
慎ましく、けれど官能的なライン。
課長は言葉を失う。
そして、彼女の肩へと視線を落とし、
肌の曲線を、まるで彫刻を撫でるように指先でなぞった。
「綺麗だ……」
そのひと言に、寿子の身体がビクンと反応した。
目元が潤み、頬が火照っていく。
「……そんな……私なんて、綺麗じゃ……」
「綺麗だよ。君が、どんな過去を抱えていても」
「今、俺の目の前にいるこの身体が……愛おしい」
それは言葉以上に、指先が語っていた。
彼はブラの肩紐を、そっと撫でるように指で滑らせた。
寿子は目を伏せ、ゆっくりと背を丸める。
その姿がまた、たまらなく美しかった。
課長はフロントホックにそっと手をかけ、
ゆるやかに外していく。
カチッ……という音と共に、
レースが離れ、寿子の胸元がゆっくりと開いた。
白い肌。
形の整ったふくらみ。
震えながらも、課長の視線を受け入れようとする羞じらい。
寿子は無意識に、腕で胸を隠そうとした。
だが、課長の手がそっとその手を取った。
「……隠さないで」
「恥ずかしがらないで。……君のすべてが、愛おしい」
その優しさに、涙が浮かびそうになる。
「……こんなふうに、見られるの……はじめて……」
彼の手が、そっと胸元に添えられる。
指先が円を描くように、柔らかな肌をなぞり、
ゆっくりと、彼女の中に熱を広げていく。
その間も、濃密なキスは何度も重ねられた。
舌と舌が触れ合い、
吐息が交じり合い、
目を閉じたまま、寿子はその口づけにすべてを委ねる。
そして──
課長は、スカートのファスナーにそっと手を添えた。
寿子はわずかに首を縦に振る。
その瞬間、ゆっくりと下へ滑らせられたファスナーの音が、
部屋の中に官能的に響いた。
スカートが腰を通り、太腿をなぞりながら床へ落ちる。
その音さえ、淫らに感じられるほど、空気は濡れていた。
「……全部、見て……ください」
「わたし……隠したくないんです……」
課長の目が、寿子の全身を慈しむように見つめる。
その視線が、指が、
ひとつひとつ、彼女の羞恥心を剥がしていく。
ベッドサイドへ導かれる。
やがて寿子は、ほとんどの衣服を脱がされたまま、
ベッドの縁に腰を下ろしていた。
課長は彼女の前に跪くようにして、再び唇を重ねる。
ちゅ……ぬちゅっ……んんっ
舌と舌の絡み合い。
抱きしめられる腕。
下着越しに伝わる課長の体温。
そして寿子は、
その唇に、心ごと預けていくのだった。


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