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【職場・OL】オフィスレディーが堕ちる夜:END(スイートルームの夜──言葉より深く)
「……静かなところに、行こうか」
唇を重ね合わせたまま、ひろしがひどく優しく囁いたその言葉に、遥は一瞬、胸の奥がきゅっと音を立てて詰まるような感覚を覚えた。
薄暗い車内で至近距離から見つめてくる彼の瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。見知らぬ男たちが遥の身体を蹂躙した時の、あの獲物を貪るような下劣な下心や凶暴性は微塵もない。
けれど、その底知れぬ静けさの奥にある大人の男としての感情は、どうしようもなく熱を帯び、遥の存在を芯から焼き尽くそうとしていた。
遥は震える身体を抱いたまま、助手席で小さく頷いた。
ひろしは静かにエンジンをかけ、ゆっくりと車を夜の街へと走らせ始めた。
波の音が響く海辺を離れ、ネオンが瞬く街の中心部へと向かって進む車内は、深く重い沈黙に包まれていた。だが、その静けさはこれまでのような恐怖や不安ではなく、むしろ、これから取り返しのつかない「何か」が始まる前の、極限まで張り詰めた緊張と高揚感に満ちていた。
遥の胸は静かに、しかし確実に、破滅へと向かう鼓動を早めていた。
「……どこに、行くんですか……?」
「ホテルだよ。シティホテルの、一番奥のスイートルーム。……とても静かで、誰にも邪魔されない……君が、心から安心できる場所だ」
その言葉に、遥はごくりと喉を鳴らした。安心できる場所。今の自分にとって、それは最も縁遠い言葉のはずだった。
自分はもう、数え切れないほどの見知らぬ男たちに力ずくで犯され、汚らわしい精液の海に沈められてきた公衆便所のような女なのだ。
「……わたし、何か……変なこと、しちゃうかもしれません……っ」
恐怖と期待がない交ぜになった声で呟く遥に、ひろしは前を向いたまま優しく微笑んだ。
「いいんだ。変でも、恥ずかしくても、全部そのままの君でいてくれ。俺が全部、受け止めるから」
それだけの言葉で、遥の指先がかすかに震え、涙が滲んだ。
夜の高層ビルの最上階。
重厚な造りのスイートルームのドアが、電子音とともに静かに開く。
案内してくれたホテルマンの足音が遠ざかり、分厚いドアがカチャリと閉まると同時に、完全な密室がふたりを包み込んだ。外部の音は完全に遮断され、そこには二人だけの世界が広がっている。
足が沈み込むような上質なカーペット。広々としたリビングには重厚な革張りのソファが置かれ、上品な間接照明が部屋の隅々を優しく照らしている。そして、その奥の寝室には、キングサイズの真っ白なダブルベッドが静かに存在を主張していた。
遥はその非日常的な空間に一歩足を踏み入れると、まるで別世界に迷い込んだような強い錯覚を覚えた。
「わあ……っ」
思わず、感嘆の声が漏れる。
まるで映画のワンシーンのような美しい場所。見知らぬ男たちに引きずり込まれた、あの薄汚れ、汗と精液の臭いが染み付いた安ホテルや公衆トイレとは全く違う。こんなにも綺麗な場所に、泥水で汚れたような自分が立っていることが、どうしても信じられなかった。
ひろしはネクタイをゆっくりと外しながら、振り返って静かに言った。
「飲み物は何か欲しい? 緊張しているなら、少しお酒でも……」
「……いえ、今は……何もいりません……っ」
遥は首を横に振り、真っ直ぐにひろしを見つめた。
(……こんなに綺麗な部屋……私なんかに、もったいない……)
そう思いながらも、遥は抗いがたい衝動に突き動かされるように、ゆっくりと彼に向かって歩み寄っていく。ベッドの脇に立った彼の目の前で立ち止まり、上目遣いでその大きな瞳を潤ませた。
「……キス……してもらえますか……っ」
か細く、けれど確かな熱を帯びた声で尋ねる。
ひろしは言葉で答えず、遥の細い腰に腕を回し、そっと自分の胸元へと引き寄せた。
そして――再び、熱い唇が重なり合った。
最初は触れるだけの、ガラス細工を扱うかのように優しく、確かめるようなキス。だが、次第にひろしの大きな手が遥の背中にしっかりと回り、彼女の柔らかい唇を貪るように、深く、深く吸い上げ始めた。
ちゅ……ぬちゅっ……んっ、ちゅぱ……っ、るるっ……。
二人の舌が、熱を帯びて激しく絡み合う。
互いの荒い吐息が入り交じり、口内でぬめりとした生々しい感触が広がっていく。遥の指がひろしのYシャツの胸元を無意識にきつく握りしめ、身体が自然と彼にすがるように傾いていった。
「ふっ……んっ、んん……んちゅっ……ぁっ」
激しく巻きつく舌。大量の唾液が混ざり合い、口角から溢れ出た透明な糸が、遥の白い顎をいやらしく濡らしていく。
ぴちゃっ、ちゅるるっ、ぬちゅ……っ。
静かなスイートルームに響く水音が淫らであるほど、遥の心の中にあった罪悪感がドロドロに溶け、ほどけていくのを感じた。
遥は自分でも驚くほど大胆にひろしの舌を求め、男の唇を強く吸い、自らの舌先で彼の上顎をくすぐるように舐め上げた。見知らぬ男たちの暴力的な肉棒をしゃぶらされた時に覚えた屈辱的なテクニックが、今は愛する人を喜ばせるための悦びへと変わっていく。
そのなまめかしい動きに、ひろしの腰がわずかにビクッと震えた。彼もまた、必死に理性の手綱を保とうとしていたのだ。
今すぐにでも押し倒して、めちゃくちゃに抱き潰したい。
だが、深く傷つき、トラウマを抱えた遥の心がこれ以上壊れないように、ひろしはどこまでも丁寧に、ゆっくりと彼女の身体を求めていた。
遥の背中を撫でる手が、やがてブラウスの上から肩甲骨を優しくなぞり、首筋から髪を指先に絡めながら、再び息もできないほど深く唇を奪った。
限界まで深く、喉の奥まで舌を沈め込むような、圧倒的なキス。
熱い口づけが、遥の内側に残っていた冷たい恐怖の残滓を、完全に溶かしていく。まだ手付かずだった純潔の蕾をこじ開けられた時の激痛も、見知らぬ男の汚い精液を孕まされる恐怖も、彼の腕の中にいる今だけは、嘘のように忘れ去ることができた。
「……んんっ、課長……好き……です……っ」
「……このまま、あなたの中に……溶けてしまいたい……っ」
快楽と安心感で小さく震える言葉が、ふたりの唇の隙間から甘く零れ落ちる。
ひろしはそのまま、自分の額を遥の額にぴったりと重ね合わせ、静かに、誓うように言った。
「……今夜は、何も急がないよ」
「俺たちには、もう邪魔する奴なんていない。……夜明けまで、時間はたっぷりあるんだ。焦らなくていい。ゆっくりと、君の心と身体を癒やしていこう」
その優しすぎる言葉に、遥の瞳に再び大粒の涙が浮かんだ。彼の声のトーン、優しい眼差し、そのすべてが遥の傷ついた心に染み込んでいく。
「……ありがとう……ほんとに、ありがとう……っ」
その涙は、これまでの凄惨な絶望や悲しみから来るものではない。汚れてしまった自分を「抱かれたい」と心の底から願い、それを受け入れてくれる誰かがいることへの、圧倒的な安堵の涙だった。
スイートルームの柔らかな間接照明が、ベッドの脇で抱き合うふたりの影を一つに重ねている。
唇は何度も、何度も重なり合い、触れるたびにその深さと熱を増していく。
まだ直接的な行為には至らぬ夜。衣服の上から素肌の熱を確かめ合うだけの時間。互いの鼓動を感じ、息遣いを重ね、ただ純粋に相手の存在だけを求め合う。
だがそれ以上に、二人の魂は言葉よりも深く、狂気にも似た純愛の底なし沼へと確実に沈んでいくのだった。もう二度と、普通の日常に戻ることはできない。彼と一緒に地獄へ堕ちる覚悟を、遥は静かに固めていた。

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