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【眠る妹への禁断の夜】兄の歪んだ衝動と睡眠薬の罠:END(目覚めと絶望)
朝の光が、カーテンの隙間からリビングに細く差し込んでいた。
遥は重い瞼をゆっくりと持ち上げた。視界がぼやけている。天井の照明器具が二重に見え、焦点が合うまでに長い時間がかかった。頭の奥に鉛を詰め込まれたような鈍い重さがあり、身体全体が水に浸かっているかのように怠い。強烈な二日酔いとも違う、経験したことのない倦怠感だった。
「……ん……ぅ……」
身体を起こそうとした瞬間、遥は息を呑んだ。
下腹部の奥に、鈍く重い痛みがあった。生理痛のような波のある痛みではない。もっと局所的で、もっと生々しい。何かで内側を傷つけられたような、じくじくとした熱を持った痛み。そしてその痛みの中心よりさらに奥に、異様な圧迫感と重苦しさが残っている。腹の底に何かが溜まっているような、得体の知れない不快感。
遥は自分の身体を見下ろした。白いブラウスは着ている。ショートパンツも履いている。一見すると、昨夜ソファで寝落ちしてしまっただけのように見える。しかし、股間のあたりに感じる微かな湿り気と、内腿にこびりつくような粘り気が、それだけでは説明できない異常を訴えていた。
遥は震える手をショートパンツの中に滑り込ませた。指先がショーツの布地に触れた瞬間、布が湿っていることに気づいた。さらに指を進め、布の下の肌に直接触れる。
ぬるりとした、異質な粘り気。
遥は指を引き抜いた。指先が微かに赤く染まっていた。血だ。しかし生理の血とは色も質感も違う。もっと薄く、別の何かと混ざり合っている。その「何か」が何なのか、遥にはわからなかった。わからなかったが、全身の毛穴が一斉に開くような悪寒が背筋を駆け上がった。
記憶を辿ろうとした。昨夜、バイトから帰ってきた。ひろしに紙コップのリキュールを勧められ、数口飲んだ。「何、急に」と思いながらも、疲弊した身体がアルコールを求めていた。それを飲んだ後、急激に意識が薄れていったような気がする。普段のアルコールとは違う、抵抗できない重さで視界が暗転した。その後の記憶が、完全に途切れている。
あのリキュールに、何かが入っていたのだ。その推測が、遥の頭の中で明確な形を取り始めた。
途切れた記憶の底に、断片のようなものが沈んでいた。暗い場所で、自分の身体の上に誰かの重みがあった。息ができないほどの圧迫感。太ももを無理やり押し開かれるような力。そして下腹部を内側から引き裂かれるような鋭い痛み。腹の奥に、熱い液体が流し込まれるような感覚。その瞬間、声を出そうとしたが、身体が動かなかった。叫びたいのに、口から漏れたのは掠れた吐息だけだった。
それが夢だったのか現実だったのか、遥には判別がつかない。しかし下腹部に残る痛みと、指先に付着した血の色は、あれが夢ではなかったことを残酷に告げていた。
遥の視線がリビングを彷徨った。そして、ソファの横の床に、ひろしが座り込んで壁に背中をもたれさせているのが見えた。
ひろしは眠っていた。服を着たまま、床の上で膝を抱えるような姿勢で。顔は穏やかで、口元にかすかな笑みさえ浮かんでいるように見えた。普段のひろしは、遥と目が合えば視線を逸らし、話しかけられても曖昧に頷くだけの、存在感の薄い兄だった。その兄が、なぜ自分のすぐ近くの床で眠っているのか。
遥の思考が、ゆっくりと一つの結論に向かって収束していった。
リキュールに何かが入っていた。意識を失っている間に、自分の身体に何かが行われた。股間の痛み。血。粘り気のある液体。そして、すぐ隣で満足げに眠る兄。
遥は両手で口を塞いだ。悲鳴が出そうになるのを、必死に押し込めた。喉の奥が痙攣するように引きつり、胃の中身がせり上がってくる。何度も何度も嚥下して、吐き気を堪えた。
まだ確証はない。自分の思い過ごしかもしれない。転んで怪我をしたのかもしれない。生理の不正出血かもしれない。そうやって必死に別の説明を探した。しかし、下腹部の奥に残る異物感が、そのすべてを否定していた。あの痛みは、外からの衝撃では説明できない。身体の内側を、何かが通過した痕跡だった。
遥の目から、音もなく涙がこぼれた。
声は出なかった。嗚咽さえも喉の奥で押し殺した。ひろしを起こしてはいけない。起こしたら、何が起きるかわからない。遥の本能が、そう警告していた。
「……っ……」
遥は震える脚でソファから降りた。股間に走る鋭い痛みに、膝が折れそうになる。太ももの内側を、温かい液体がゆっくりと伝い落ちていく感覚があった。拭き取られたはずの痕跡が、身体の奥から滲み出してきている。遥はその感覚に全身を硬直させながら、音を立てないようにリビングを横切った。
廊下に出ると、遥はその場にしゃがみ込んだ。壁に背中を預け、両膝を胸の前に引き寄せた。小さく丸まった身体が、止まらない震えに揺れている。
携帯電話はリビングに置いたままだった。取りに戻るには、眠っているひろしの横を通らなければならない。その勇気が、今の遥にはなかった。
そもそも、警察に何を言えばいいのか。自分でもまだ、何が起きたのか正確にはわかっていない。「眠っている間に兄に犯されたかもしれない」。そんな曖昧な訴えを、誰が信じてくれるのか。証拠は。遥の股間に残る痛みと血は証拠になるのか。しかしそれを警察に見せるということは、見知らぬ人間に自分の最も恥ずかしい部分を晒すということだ。
そして何より、遥の頭の中を支配していたのは、もっと現実的な恐怖だった。
昨日、生理管理アプリで確認した。今週は危険日だった。そのことをひろしが知っていたかどうかはわからない。しかし、下腹部の奥に残る異様な重さと圧迫感が、最悪の可能性を突きつけてくる。もし本当に中に出されていたら。実の兄の子供を宿してしまったら。その先にある人生を、遥は想像することすらできなかった。
「……お母さん……助けて……」
掠れた声が唇から零れた。誰にも届かない。家の中には、廊下でうずくまる遥と、リビングで満足げに眠るひろしの二人しかいない。
遥は両腕で自分の身体を抱きしめた。小さく丸まった身体の中心で、下腹部の鈍痛がずっと脈打ち続けている。その痛みが消えることは、もうないのかもしれない。身体の傷はいつか治るだろう。しかし、眠っている間に実の兄に犯されたという事実は、一生消えない。
遥の世界は、静かに、決定的に壊れていた。
朝日が廊下の窓から差し込み、うずくまる遥の背中を白く照らしていた。その光は温かいはずなのに、遥の身体は震え続けている。リビングからは、ひろしの穏やかな寝息だけが聞こえていた。昨夜の凶行を犯した人間のものとは思えない、安らかな寝息。
夕方になれば両親が帰ってくる。日常が戻ってくる。しかし遥は知っている。もう二度と、元の日常には戻れないことを。兄と同じ屋根の下で暮らし続ける限り、あの夜の記憶は遥の全身に染みついたまま消えない。ひろしの顔を見るたびに、下腹部の痛みが蘇るだろう。そしてひろしは、遥が何も言えないことを知っている。気弱で、人に助けを求められない遥の性格を。それを利用して、またいつか同じことをするかもしれない。
遥はただ、冷たい廊下の壁に背中を預けて、声を殺して泣き続けていた。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
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