操りの終わり――現実に戻った裸の若妻、涙の夜
静寂の夜――
ひろしは身支度を整えると、そっと寝室を後にした。
録画したスマートフォンをポケットにしまい、何もなかったかのように紗江の家の玄関を静かに開けて外に出る。
その瞬間、操りの呪縛がふっと解ける。
――カチリ。
何か見えない鎖が、紗江の心と身体から解き放たれた。
全身を貫いていた熱も、指先の命令も、
急激に“自分自身”の感覚へと戻っていく。
「……え?」
紗江はベッドの上に、裸のまま一人で取り残されていた。
汗ばんだ身体、赤く腫れた唇と火照った肌。
太腿の間には、愛液と精液が混じった粘つく感触が残っている。
胸元には、まだ乳首の痺れ。
喉の奥には、強い塩味の余韻さえあった。
ふと横を見る。
そこに、誰の姿もない。
「……どうして……私、こんな格好で……?」
すべてが――
頭の奥に鮮明に蘇ってくる。
昼間の公園でのこと、
なぜか身体が勝手に動いて、知らない男に誘惑の手紙を渡したこと、
自分から家に招き入れ、
何度も淫らな声をあげ、
懇願し、飲み干し、
すべて録画されたこと――
その一部始終が、強烈な実感とともに脳裏に焼き付く。
「……やだ……どうして……?」
声はかすれ、膝を抱え込む。
全身が恐怖と羞恥、後悔と理解不能な快楽で震える。
「私、どうして……
なんで、あんなこと……
止めたかったのに……
やだ、いやだ、こんなの……!」
涙が、頬をつたって溢れ出す。
止めどなく流れる、悔しさと恥ずかしさ、
どこにもぶつけられない罪悪感。
裸のまま、ベッドの隅で
「なんで……なんで、私が……」
「全部、全部思い出すのに、どうして止められなかったの……」
声にならない呻きと嗚咽。
玄関の向こうには、夜風の音だけが虚しく響いていた。
ひろしの気配はもうどこにもない。
――操りは終わり、現実だけが残った。
記録と痕跡は、もう消えない。
涙にくれた裸の紗江だけが、
静かな寝室でいつまでも、
自分自身の記憶と後悔に
囚われ続けていた。
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