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時の檻に囚われて――遥の初めての微熱
講義室の窓際、冷たい秋風がカーテンを揺らし、淡い陽射しが柔らかく遥の頬に降り注いでいた。彼女の横顔はまるで透明な硝子細工のようで、壊れそうなほど儚い。
「……また、隣か。」
遥は微かに眉をひそめる。(ひろし、今日もこっち見てる……やめてほしい……)
ひろしの胸は、遥が隣に座るたびに高鳴り、抑えがたい鼓動が喉元までせりあがってくる。彼女に想いを寄せていることは、誰にも知られていない——もちろん遥にも。
けれど、遥はひろしを好ましく思っていない。むしろ視線すら合わさぬよう、意識して距離をとっている。 (なんで、僕じゃダメなんだろう。どうして、こんなにも遠いんだ……)
講義は退屈な哲学の授業。教授の声がやわらかく波紋のように広がる中で、ひろしは机の下で手をぎゅっと握りしめていた。
そのときだった。
不意に、世界が「止まる」感覚が訪れた。
空気が、音が、光さえも、一瞬で凍りつく。まるで時間という川が、音もなく氷に覆われていくかのように。
「……まさか、本当に?」
机の上のペンが空中で止まり、教授の唇は最後の言葉を吐きかけたまま、ぴたりと静止している。
遥も動かない。
繊細なまつ毛、微かに揺れる胸元のリボン、吐息すら、全てが永遠の彫刻になったように。
ひろしは恐る恐る遥の顔に近づく。こんなにも近く、彼女の体温を感じられるのは初めてだった。
——これが、僕に与えられた「能力」
誰にも邪魔されず、彼女だけを自分のものにできる、禁断の力。
ゆっくりと、ひろしは遥の髪に触れた。 (……柔らかい。ほんとうに、生きているみたいだ)
彼女の唇に目を落とす。ピンク色の、まだ誰にも奪われたことのない処女の唇。
その清らかさが、ひろしの本能をさらにかき立てる。
ひろしは震える指先で、遥の頬をそっと撫でた。
(嫌がるだろうか、いや……今だけは、僕のものだ……)
誰にも知られない密室のような時間の中、遥の唇へ、そっと自分の唇を重ねていく。
やわらかい。温かい。
ずっと夢に見てきた感触が、現実になってひろしを包み込む。 それは甘美で、背徳的で、思考が溶けてしまいそうだった。
遥の身体は動かないが、その少女の香り、ほんのり汗ばむ肌の感触、未体験の「初めて」に満ちた吐息が、全て彼の感覚を焼きつくす。
「……遥、好きだ……」
(ごめん。だけど、僕はもう止められない)
再び、唇を重ねた。今度は少しだけ、角度を変えて、より深く。
彼女の唇の縁を、舌でそっとなぞる。
遥はまるで人形のように何も感じていない——はずなのに、 (この感触は、きっと時間が動き出したときに――)
——「快感」は、時間が動いたとき、一気に遥の中に流れ込む。
ひろしの指は、遥の手の甲へ、そしてその指先に絡みつく。 遥の細くて白い指。震えるほどに美しい。
彼はそっと遥の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「好きだよ、遥……本当はずっと、君のことだけを見ていた。」
その声は遥に届かない。けれど、空気が震えて、二人だけの時間が紡がれていく。
ひろしは遥の首筋に唇を這わせる。
「綺麗だよ、遥……君のすべてが、欲しくてたまらない……」
(今だけは……僕の好きなように、君を……)
唇から、顎、そして細い首筋まで、ゆっくりと愛撫する。
遥の胸元、制服のボタンに指をかける。迷いと罪悪感が、快楽と背徳の波に溺れて消える。
「これ以上は……」 (駄目だ。だけど、止まらない)
彼は遥の胸元の布地の上から、そっと手を当てた。 その柔らかな膨らみは、まだ誰にも触れられたことがない、純粋な肉体。
指先でなぞると、その下で遥の心臓の鼓動を感じたような気がした。
(遥、君は僕のこと、きっと嫌いだろう。でも……今だけは……)
時間停止の世界の中で、ひろしは遥の身体に、いくつものキスを落とす。 「遥……可愛いよ……こんなに無防備で……」
彼の欲望は、もう誰にも止められない。
そして、ひろしは決断する。
「もう十分だ。これ以上は……」 (君が嫌がることは、したくない)
ひろしは遥の髪をそっと撫で、最後に一度だけ、強く深くキスをした。
そして、心の中でゆっくりと呟く。
「時よ、動け——」
時が流れ出した瞬間、遥の頬が急に赤く染まる。
息を呑むような震えが、彼女の身体を包む。
(な、なに……今、何が……?)
熱く、胸が高鳴る。唇がじんわりと痺れるような、今までにない感覚。
遥は慌てて隣を見る。ひろしが、妙に苦しそうな顔で自分を見ている。
「ひ、ひろし……今、何かした?」
ひろしはただ、黙って遥の目を見つめていた。
遥は何も気づかないまま、だけど身体の奥に、得体の知れない快感が残っている。
それは、止まった時間の中で与えられた、初めての「熱」。
そして、遥はその意味を、まだ知らない。



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