まだ体内に、熱の名残が残っていた。
膣の奥が、脈打つようにじんわりと疼いている。
遥は、男の上に跨ったまま、膝をついて震えていた。
吐息はかすれ、太ももには力が入らない。
中で吐き出された液体が、重力に従って少しずつ、じゅく……と膣口から溢れ、太ももを伝って地面に滴る。
その感触に、遥の意識が再び現実へと引き戻される。
(……あ、あれ……? 今日って……)
脳裏に、ふいに浮かんだカレンダーの赤い印。
忘れていたわけじゃない。
見て見ぬふりをしていただけ。
でも、今──目の前に突きつけられた。
思い出してしまったのだ。
今夜──今日という日が、排卵の予測日と、ぴたりと重なっていたことを。
(今日……危険日……っ)
一気に血の気が引く。
もう、遅い。奥にあんなに──。
けれど、その不安を口にする前に。
下腹部で、男の肉が、再び脈を打ち始めていた。
「……おい、終わりじゃねえぞ」
掠れた声。なのに、どこか笑っているようなその声が、遥の背筋をぞわりと這い上がる。
だが、そんな遥の動揺とは無関係に、男は寝そべったまま、うすく笑いを浮かべていた。
「なぁ、もう一回……できるよな?」
その言葉に、遥の背がびくりと跳ねた。
「……っ……や、だ……もう、やめて……中に、もう……っ」
「関係ねぇよ。お前、さっき自分で選んだよな。騎乗位、って」
それは──拒めなかった。
選ばされただけだった。
でも、それを言っても意味がない。
この男の中では、すべて「自分から選んだ」ことにされてしまうのだ。
「……まだ、あったけぇな……中。もう一回、味あわせてもらうぜ」
そう言いながら、男の下腹が動いた。
その中心──さっきまで放たれていたはずのそれが、また硬さを取り戻しはじめていた。
にゅるり、と。
自身の吐き出した液で濡れた肉が、遥の膣口をぬらりと撫でる。
「……ひっ……や、やめて……やだ、お願いっ……!」
それでも、彼女は跨がったままだった。
離れようとした腰を、男の手が簡単に掴み、逃がさない。
そのまま、先端が膣口に押し当てられ──
ずぶり、と沈んだ。
「あ……っ、やぁ……だめぇっ……!」
中は、ぬめりと熱に満ちていた。
男のものを迎える準備など、もう十分に整っていた。
否、整えさせられてしまっていた。
膣内の肉が、形を覚えていた。
先ほどの挿入と絶頂で、奥の粘膜はふやけ、膨張し、やわらかくなりきっていた。
そこに、再び異物が押し込まれる。
押し広げられ、侵され、打ち込まれ──
「あっ……あっ……ぁ……んっ……!」
声を出したくなかった。
けれど、出てしまった。
低く響く衝撃に、腰が逃げたくて浮こうとするのに、男の手がそれを押さえつける。
「ほら、自分から動くんだろ? さっき言ったよな。騎乗位だって」
また、言われる。
それが、いちばんの屈辱だった。
選びたくなかったのに。選ばされたのに。
なのに、それを“望んだ”と断定されてしまう。
(わたし……こんな……っ)
だが、腰はわずかに揺れていた。
そうしないと、痛みが逃せなかった。
そうしないと、終わらせられない。
ゆっくりと、上下に、わずかに。
男の肉が、ぬるぬると膣内をこすりあげる。
吐き出された液が潤滑油のように絡みつき、遠慮なく奥まで届く。
(なか……もう、だめなのに……っ)
自分の身体の内側が、すでに一度受け入れてしまった男を、また受け入れている。
恐ろしいほど自然に。
染み込んだ体液ごと、奥へ奥へと。
「やっぱり、相性いいな……お前の中、気持ちよすぎて、たまんねぇわ……」
その言葉が、耳の奥を焼く。
同時に、遥の身体がひくりと痙攣した。
奥の感覚が麻痺しかけていたはずなのに、微かに、また熱が生まれてくる。
それを必死に否定しようと、遥は首を振る。
「ちが……違う、わたし、気持ちよくなんてない……っ、お願い、もう、出さないで……中、だめ……っ、今日、ほんとに、やばい日なの……っ!」
男は、笑った。
その反応すら、興奮材料になるかのように。
「そりゃ、ラッキーだな……一発でできたりしてよ」
耳元でささやかれ、遥の顔が蒼白になる。
腰の動きが止まる。
けれど、男の手がそれを許さず、ぐっと下から突き上げた。
「あ……っ、ああっ……!」
再び、奥が叩かれる。
「……もう一回、中で、出してやるよ」
「や、もう……やめて……っ、ダメ……今、ほんとに、今日……っ」
男の動きは鈍くも力強く、焦らすように、奥を探りながら確実に突き上げてくる。
ぐっ、ぐっ、と沈むたびに、遥の腰がわずかに揺れ、太ももが小刻みに震える。
「……中、まだ温かいな……ずっと締めつけてきやがる……」
その言葉が、耳にまとわりつく。
意識では拒絶しているのに、身体の反応は止められない。
危険日――妊娠の可能性。
その恐怖が、皮膚の内側からじわじわと広がっていく。
「やっ……ダメ、ほんとに……抜いて、お願い、奥は……っ」
そう訴えても、男は一切聞く耳を持たない。
むしろその懇願を楽しむかのように、リズムを深くしていく。
膣が勝手に反応して、濡れがまた増す。
それがまた男を煽る。
「……このまま、また中に出してやるよ。そっちのが……いいんだろ?」
遥は首を振る。
けれど、腰の動きは止まらない。
男の体温が奥まで突き刺さるように届くたび、先ほどの余韻が呼び起こされる。
自分でもわかる。
奥が、また濡れていること。
また受け入れようとしていること。
(いや……いや、だめ……このままじゃ……)
でももう、止められない。
男の突き上げが深くなり、呼吸が詰まる。
腰が勝手に浮いて、また沈む。
心とは裏腹に、身体が、男の動きに沿うように揺れていく。
(お願い、出さないで……!)
心で何度も叫ぶ。けれど──
男の腰が最後に、ぐっ、と深く沈んだ。
奥が、また熱く脈を打つ。
そこに放たれるものの感触を、遥は明確に、膣の奥で感じ取っていた。
(……あ……っ……また……)
喉の奥から、声が出なかった。
代わりに、静かに涙がこぼれ落ちていた。
そして遥の中に、また新たな熱が注がれていた。
川のせせらぎが、夜の静けさに微かに混ざる。
遠くの街灯がゆらゆらと瞬いては、薄暗い地面に長い影を落としていた。
遥は、シートの上に膝を抱えて座っていた。
脚の間に、じんわりとした温もりが残る。まだ乾ききらない男の精が、下腹部の奥に留まり、じわじわと重みを持っているのを──確かに感じていた。
(……中に……二回も……)
意識がそこから離れられない。
肉体の火照りは冷めていくのに、不安だけが、喉の奥でじっとりと形を保ち続けていた。
自分の中に注がれたもの。
熱をもって、今も子宮の奥にとどまっているかのようだった。
(今日が、あんな日じゃなかったら……)
その「もしも」にすがりたかった。
けれど、自分の身体の周期は、いやというほど正確だった。
赤くつけていた丸印。
忘れてなどいなかった。
(今……もう……受精してるかも、しれない……)
ぞっとした。
背筋を這う冷たい何かに、遥は自分の肩を強く抱きしめた。
だけど、震えは止まらなかった。
汗と土にまみれた身体は、もうどうにもならないほど汚れていたのに、それでも──奥に残ったあの液体だけは、どんなに擦っても流せない。
流れ出てしまえばよかった。
でも、そうではなかった。
膣内が、それを絡め取って、奥へ奥へと運んでいるような感覚さえした。
身体が、拒んでいない。
それが──何より怖かった。
(できるはずがない、まだ……学生なのに……)
ふいに、教室の風景が頭に浮かんだ。
制服。窓の外。騒がしい友達の声。
けれど、その日常は、今の自分とは遠すぎて──まるで別の世界のようだった。
あんな風に笑っていた昨日までが、嘘のように感じられた。
川の音が、ひどく冷たく聞こえた。
誰もいない夜の空間に、ただ自分の息遣いと、膝のあいだからこぼれた液体のぬめりだけが、生々しく残っていた。
(このまま……妊娠してたら……)
考えないようにしても、頭の中がそれを繰り返す。
親に知られたら?
学校は?
産むのか? 堕ろすのか?
そのどれもが、遥には想像もできなかった。
ただ、ひとつだけ確かなのは──彼は責任など取らないということ。
どころか、すでに背を向け、別の寝場所を探すように地面に横たわっている。
その背中には、関心のかけらもなかった。
自分の中で何が起きているのか。
これからどうなるのか。
一切、彼は知ろうとしない。
知る必要がないと思っている。
遥だけが、ひとり。
ひとりで、その夜を抱えていた。
風が吹いた。
川辺の草がさわりと揺れて、ひやりとした風が汗の乾いた肌を撫でる。
ぞくりとした。
その寒さの中で、遥は思わず下腹を手で押さえる。
何も始まっていないのに、もう失っている気がした。
もう、戻れない。
初めてを奪われたことではない。
“自分の体”が、もう自分だけのものではないという実感。
それが──遥を、最も深く、怯えさせていた。
(……お願い……何も、起きませんように……)
願うしか、できなかった。
震えるまま、ひとりきりの夜の川辺で、遥は何度も心の中で、誰ともわからない存在に祈り続けていた。

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