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【たった一度の過ち】撮影された少女は店長の性処理の餌食に:vol.12(身分証コピーと支配の呪縛)
行為が終わっても、事務所の空気は重かった。
汗と体液と涙が混ざり合った、甘ったるく不快な匂いが、換気もされない密室に澱んでいた。遥は床の上で膝を抱え、制服のスカートだけを引っ張って身体を隠そうとしていた。下着がどこにあるかわからなかった。それを探す気力も、もうなかった。
ひろしがゆっくりと服を整え、椅子に腰を落とした。スマートフォンを操作しながら、撮影した動画を確認している。その横顔を見ているだけで、遥の全身が粟立った。
(……早く……早く終わって……帰りたい……)
それだけを願っていた。もうここにいたくなかった。この場所の空気を吸いたくなかった。
ひろしがポケットに手を入れた。
「身分証、出せ」
声は静かだった。それがかえって、遥の心臓を凍らせた。
「……え……」
「聞こえなかったか? 身分証。財布の中にあるだろ」
遥は震える手でジャケットの内ポケットを探った。小さな財布が指に触れる。開けようとしても、指先が言うことを聞かない。
ひろしが舌打ちして、遥の手から財布をひったくった。中を探り、運転免許証を引き抜く。
「ほう」
男の目が、カードを舐めるように動く。遥の顔写真。名前。生年月日。住所。勤務先。遥のすべての情報が、その小さなカードに刻まれていた。
(……だめ……だめだめ……それだけは……)
「いい会社に勤めてんだな。これがあれば、会社にも家族にも連絡できる。今夜の”証拠”と一緒にな」
「……やめて……それだけは……お願い……返して……っ」
遥は床から立ち上がろうとしたが、膝が震えて立てなかった。四度の行為で消耗した身体は、もうまともに動かなかった。
ひろしはゆっくりと事務所の奥へ歩いていった。複合機の前に立ち、免許証を台に置く。
機械音が響いた。
カシャン——ウィーン——白い光が走る。
遥の身元情報が、白い紙の上に克明に印刷されていく。名前も、顔も、住所も、勤務先も。今夜、遥がここで何をされたかを知っている男が、今その情報のすべてを手に入れた。
「……やだ……いやです……返してください……お願い……」
床を這うようにして、遥は複合機に向かって手を伸ばした。だが、ひろしが振り返り、遥の手を冷たく見下ろした。その視線だけで、遥の身体は凍りついたように動けなくなった。
(……だめ……そんなもの持たれたら……わたしの人生……)
コピー機から吐き出された一枚の紙。たったそれだけの紙切れが、遥のこれからのすべてを縛り付ける鎖に変わった瞬間だった。
(……終わった……もう……逃げられない……)
コピーされた紙を手に、ひろしが戻ってくる。それを遥の顔の前に突きつけた。
「これがあれば、お前はもう俺から逃げられない。動画も写真も、このコピーも——全部そろった」
遥の視界が滲んだ。涙が出てきた。でも声が出なかった。
「もし逆らったら? 断ったら? 連絡を無視したら?」ひろしは一つ一つを、楽しむように区切りながら続けた。「全部、会社と家族にバラまく。動画も、写真も、このコピーも全部送る。一瞬でお前の人生が終わる」
「……っ……お願い……そんなこと……しないで……」
声が震えた。嗚咽が混じった。
「じゃあ、素直にすることを聞け。簡単だろ?」
ひろしの口角が醜く釣り上がった。遥を自分だけの玩具として手に入れたという、絶対的な支配者の顔だった。
「……う……ううっ……」
言葉にならない鳴き声が、遥の喉から漏れた。両手で顔を覆い、ただ震えることしかできない。自分の愚かさが悔しかった。万引きなんてしなければ。こんな店長に逆らっていれば。だが、もう遅い。後悔しても時間は戻らない。
(……終わった……わたしの居場所……どこにもなくなる……)
ひろしはスマートフォンを取り出し、遥の免許証に書かれた携帯番号を指で押さえた。
「この番号、登録するぞ。俺から連絡があったら、必ず出ろ。次はどこでやるか、俺が決める。お前は来るだけでいい」
(……次……また……)
今夜だけで終わらない。それがはっきりとした言葉になって遥の耳に刻まれた瞬間、遥の心の何かが完全に折れた音がした。
床に膝をついたまま、遥はただ俯いた。声も出なかった。泣くことすらできなかった。ただ、脚の内側を伝う精液の生温かさだけが、現実として存在し続けていた。
「わかったか?」
ひろしが遥の顎を指で持ち上げた。視線を合わせることを強制される。
「……わかった……わかりました……」
声は蚊の鳴くほど小さかった。だが言ってしまった。抵抗できなかった。これ以上、失うものがなかった。
ひろしは満足そうに笑い、遥の頬を軽く叩いた。
「いい返事だ。帰っていいぞ。でも俺の連絡は無視するなよ。もし出なかったら——わかるな?」
遥は頷いた。
制服を乱れたまま着直し、震える手で髪を直す。下着を探したが、どこにあるかわからなかった。ひろしは教えなかった。遥は下着なしのまま、スカートだけを引っ張り下げて立ち上がった。
事務所の扉に手をかけた瞬間、ひろしがまた口を開いた。
「最後にもう一回だけ」
手が伸びてきた。強引に唇が重なる。唾液と涙が混ざる長いキスを、遥は目を閉じたまま受け止めた。抵抗する気力が、もうどこにも残っていなかった。
「これからも、よろしくな」
扉を開けると、冷たい夜の空気が全身に当たった。事務所の匂い——男の匂い、体液の匂い——がまだ肌に染み付いていた。
(……帰れる……でも……また来なきゃいけない……)
深夜の街は静かだった。街灯の下を、遥は震えながら歩いた。太ももの内側に、精液がまだ残っていた。冷えていく感触が、今夜のすべてを記憶として刻み込んでいく。歩幅を広げるたびに、内側に残った粘ついた液体が擦れ、不快な音を立てる気がした。
「……うっ……ひっ……」
歩きながら、しゃくりあげるような泣き声が漏れる。誰かとすれ違ったらどうしよう。こんな乱れた姿を見られたらどうしよう。そんな恐怖に怯えながら、暗い夜道を逃げるように歩き続けた。
(……きもちわるい……洗いたい……でも……)
洗っても、きっとこの汚れは落ちない。ひろしに撮られた映像と、コピーされた身分証がある限り、遥の身体はいつでもひろしのものにされてしまうのだ。
電柱の陰で、遥は立ち止まった。両手で顔を覆い、声を抑えながら泣いた。誰にも聞こえないように。誰にも見られないように。ひろしの笑い声が、耳の奥でまだ響いていた。
逃げ場はなかった。
どこにも、誰にも、何も言えない。言えば全部終わる。だから黙っているしかない。黙って、次の連絡を待つしかない。
夜明けまで、まだ時間があった。遥は夜の街を、一人で歩き続けた。
冷たい風が吹くたびに、スカートの下の無防備な肌が冷やされる。下着を穿いていないという事実が、ひろしの支配がまだ続いていることを嫌でも実感させた。家に帰っても、きっと眠れない。目を閉じれば、あの事務所の天井と、自分を見下ろす男の顔が浮かんでくるに決まっている。
(……わたし……これからどうなるの……)
答えは出ない。ただ、果てしない絶望だけが、夜明け前の暗闇と同じように、どこまでも続いていることだけは確かだった。

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