🔖 全ての物語の目次はこちら

オフィスレディーが堕ちる夜―純愛か絶望か・・・(翌日、過去の話しをした海に車で行く)vol.42

家庭・兄妹

▶ 名前変換:入力フォームを開く






オフィスレディーが堕ちる夜―純愛か絶望か・・・(翌日、過去の話しをした海に車で行く)vol.42

海辺の再会──もう、誰にも壊されない

朝の空は淡く、
昨日の闇とは違い、どこかほっとするような優しさを孕んでいた。

寿子は出社せず、窓辺のカーテン越しに外の光を見ていた。
恐怖も不安も、記憶の奥に残ってはいるが、なぜか今日は――少し違っていた。

スマートフォンが鳴った。
メッセージではなく、着信。

「課長……?」

少し躊躇して、画面に指を滑らせる。

「……寿子。今、大丈夫か?」

その声は、昨夜のままだった。
静かで、優しくて、決して急かさない響き。

「……はい。大丈夫です」

「少し、付き合ってくれないか。前に一度、海へ行ったろう?」

「はい……覚えてます」

「また、行こう。あそこなら……君も、話しやすいだろう」

寿子の胸が、少しだけ温かくなった。
課長がこうして誘ってくれるだけで、
昨夜から張りついていた心の膜が、ほんのわずかに溶けるようだった。

助手席の窓から、海が見えてくる。
波が光を跳ね返し、キラキラと瞬いている。

寿子はシートベルトに手を添えたまま、
窓の外をぼんやりと眺めていた。

「あの……どうして今日は、海へ?」

課長はハンドルに視線を落としたまま、
少しだけ苦笑を浮かべた。

「君が……あの時、初めて泣いた場所だったからだ」

寿子の喉がきゅっと締まった。

「あの時は、すべてを言えなかった。
俺も君も、まだ……何かに怯えていたように思う」

車が海辺の駐車スペースに止まる。
エンジンが静かに切られ、波音だけが空間を支配する。

課長が静かに言った。

「寿子。もう、何も心配しなくていい」

その言葉は、なぜか深く胸に落ちた。
理由も、根拠もわからない。
でも、そう言われただけで、涙が滲みそうになる。

「本当に……?」

課長は答えず、ただ助手席側に身体を傾けると、
寿子の肩にそっと手を添えた。

そして、言葉の代わりに――
彼女を優しく抱きしめた

「あの男は、もう現れない。君を苦しめる者は、誰もいない」

知らない。
寿子は、まだ何も知らない。

けれど、課長のその腕の力に、
ただならぬ確信と覚悟が宿っていることだけは感じ取れていた。

彼女の肩が、小さく震えた。
声にならない吐息が漏れる。

課長のシャツの胸元に、寿子の頬がそっと沈む

「……夢みたい……」

「まだ、怖いけど……でも、少し……安心してる自分がいるの……」

「安心していい。もう大丈夫だ」
「俺が、必ず守る」

――たとえそれが、罪でも。
――誰かを裏切ることになったとしても。

その腕の中だけは、本物だった。

波が打ち寄せる音が、
二人だけの時間をなぞるように、静かに鳴り続けていた。

寿子は、課長の胸に顔を埋めたまま、ふと目を閉じる。

目の奥に浮かぶのは、
これまで受けてきた数々の屈辱。
涙で濡れた夜。
自分を責めて、壊れそうになった記憶。

けれど、今は違う。

誰かの腕に包まれて、静かに深呼吸ができることが、
こんなにも救いになるなんて思ってもみなかった。

課長は既婚者。
その事実は、心のどこかに刺さったままだ。

けれど今は、そのことすら霞んでいた。

「罪だとしても……私……この人に抱かれたいと思ってる」

課長の指が、寿子の頬に触れる。
髪をそっと撫で、額に唇を落とす。

「寿子……」

名前を呼ばれるたび、
胸の奥が疼く。

手を重ね、指を絡め、
何も言わず、ただ時間だけが過ぎていく。

寿子の心は、少しずつほどけていった。

その日、海は穏やかだった。

こんな私でも──海辺の密室で重なる吐息

課長の車の中、二人きり。

助手席のドアが閉じられる音と同時に、
世界は再び、二人だけの密室になった。

外から聞こえるのは、静かな波の音。
かすかに風が窓を叩く音が、時間の流れを遅くしている。

寿子はシートに腰を下ろしたまま、
膝の上で手を握りしめていた。

「……静かですね……」

「うん……でも、俺はこの静けさが好きだ」

課長の声が、低く、落ち着いていて。
それだけで、寿子の胸の奥がくすぐられるように疼いた。

ふと視線を感じ、目を向ける。
課長の目が、まっすぐに寿子を見つめていた。

優しい瞳。
けれど、その奥にあるのは、理性と衝動のせめぎ合い。

寿子の心が、きゅうっと締め付けられる。

彼の優しさが苦しい。
彼の沈黙が、怖い。

自分は汚れている。
誰にも言えないようなことを、何度も強要されてきた。
それでも、課長に触れられたいと思ってしまう、この気持ちが……たまらなく罪だと思った。

だからこそ――

「……キス、してもいいですか……?」

その一言は、震える唇からこぼれ落ちた。

課長は少し驚いたように眉を上げたが、
すぐに微笑み、寿子の頬に手を伸ばした。

「……寿子がいいなら……俺は、拒まないよ」

その瞬間、寿子の中にあった何かが、音を立てて崩れた。

彼女は自らの手で課長の頬に触れ、
自分から、ゆっくりと顔を近づけていった。

そして――

くちづけ。

最初は触れるだけの、柔らかく優しいキス。

けれど次第に、寿子の唇が動き始め、
課長の下唇をゆっくりと吸い上げる。

吐息が交じる。
熱が伝わる。

寿子の舌が、遠慮がちに課長の唇の隙間を探ると、
課長もそれに応えるように舌を伸ばし、絡め合った

ちゅ……ぬちゅ……ん、ちゅ……

くちゅくちゅと、湿った音が車内に響く。
寿子の口内に入り込んだ課長の舌が、舌先を優しくなぞり、押し広げる。

ぬらぬらと絡む舌の感触が、
彼女の背筋を震わせ、内ももに熱を走らせる。

「ん……っ、はぁ……っ」

身体を少しずつ傾けながら、
寿子は自分の心が崩れていくのを感じていた。

――こんな自分でも、欲しいと思ってしまう。

ディープキスが深まるたび、
頭の中が真っ白になっていく。

彼の舌。
彼の息。
彼の温度。

「課長……っ……」

キスの合間に、寿子は喉の奥から絞り出すように言った。

「……こんな私でも……っ」
「……抱いて、欲しいんです……」

課長の目が揺れた。
けれど寿子は止まらなかった。

「汚れてて……弱くて……でも……」

その目が潤み始め、次の瞬間、ぽろぽろと涙が頬を伝って落ちた

「……わがまま、許して……」
「……抱いて欲しいの……もう、ずっと……あなたの温もりだけが、欲しかった……」

彼の優しさが、欲しい。
理性ではなく、本能に抱かれたい。
もう、何も考えずに、彼の中に沈み込みたい――

それは、恋でも愛でもないかもしれない。
でも確かにそこにある、“救いの欲望”だった。

課長はゆっくりと寿子の頬を拭った。

「……泣かないで」
「お前がどんなになっても、俺は……そんなことで軽蔑したりしない」

そして再び、唇が重なった。
今度は課長から、深く。

優しさと欲望の混ざった、
溺れるようなキスだった。

「……寿子……」

何度も名前を呼ばれるたび、
寿子は自分の存在を肯定される気がして、
胸の奥が溶けていった。

「こんな私でも……大丈夫ですか……?」

「……大丈夫だ。お前は、ちゃんと、生きてる」

言葉よりも、
その手が、その口づけが、すべてを語っていた。

そして、二人の呼吸は次第に熱を帯びていく――

コメント