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オフィスレディーが堕ちる夜:vol.2(コピー機の後ろから誘惑)
人影が消えた深夜のオフィスは、昼間とは全く違う妖艶な静寂に包み込まれていた。ふたりきりという特殊な環境が、日常の境界線を曖昧にしていく。
夜のフロアに低く響くのは、大型コピー機の単調な作動音だけ。白く無機質な蛍光灯の光が、時折作動するスキャナーの青白い光と共に、薄暗いカーペットの上に静かに影を落としては消えていく。
時計の針はすでに日付を跨ぎ、午前零時を過ぎていた。同じフロアに残っている社員は、もう誰もいない。
このだだっ広い空間に、新入社員の遥と、課長のひろしのふたりきり。昼間の喧騒や電話のコール音が嘘のように、ただ機械のリズムだけが静寂の中で時間を刻んでいる。
遥は、先ほどひろしに確認してもらった資料をコピー機にかけながら、いつも通り真面目な顔でせっせと排紙トレイの書類を束ねていた。だが、その胸の奥では、先ほどひろしの腕に触れた時の熱が、まだ火傷のように残っている。どこか落ち着かない視線を、時折自分のデスクでパソコンに向かうひろしの広い背中へ向けては、目が合いそうになって慌てて逸らす。その初々しくもぎこちない仕草は、大人の余裕を持つひろしの目には妙に可愛らしく映っていた。
ひろしは、遥のそんな揺れる視線に気づかないふりをしながら、キーボードを叩き続けていた。
だが、この夜の密室のような空気が、純情すぎる遥の心を、少しずつ狂わせていた。
「あ……」
突然、コピー機が重く不穏な機械音を立てて停止した。赤いエラーランプが点滅し、液晶パネルに『紙詰まり』の文字が表示される。
「……課長、すみません。コピー機が……詰まってしまったみたいで……」
遥が申し訳なさそうに声をかけると、ひろしはすぐに席を立ち、遥の元へと近づいてきた。
「ん、貸してごらん。この古い機種は、よくここで引っかかるんだよ」
ひろしは遥のすぐ横に立ち、大きな手でコピー機の側面カバーを開け、トナーの奥を覗き込んだ。
ひろしが屈みこんだ瞬間、彼の肩越しからふわりと、男性特有の整髪料と微かな汗の匂いが遥の鼻腔をくすぐった。先ほどよりもずっと近い距離。彼のYシャツ越しに浮かぶ背中の筋肉の起伏が、嫌でも目に入る。
「ごめんなさい、私……不器用で……」
かすれた囁き。遥の声は、どこか普段よりも上擦り、息が多い。極度の緊張と、それ以上の『何か』に急き立てられるように、彼女の心臓は胸の奥で早鐘を打っていた。
ひろしが奥に詰まった紙を引き抜き、紙詰まりを解消して立ち上がろうとした、その時だった。
ふらりと、遥はまるで何かに吸い寄せられるように一歩前へ踏み出し、立ち上がりかけたひろしの広い背中に、密着するように自分の柔らかな身体を押し当てた。
「……あっ」
自分でも信じられない行動だった。遥の細い両腕が、後ろからひろしの胴に回され、強くしがみついている。タイトスカートから伸びる脚が震え、ひろしの足にすがるように触れた。
「……課長……」
遥の熱い頬がひろしの背中に沈み、小動物のような小さな震えが、Yシャツ越しに直接伝わってくる。
それは、決して計算された誘惑などではなかった。ただ、この夜が終わってしまうことへの恐怖と、彼への得体の知れない慕情が限界を超え、彼女の理性を吹き飛ばしてしまったのだ。
遥の華奢な身体が、やわらかな熱をまとって密着している。ブラウス越しでもはっきりとわかる、未成熟ながらも柔らかな胸の膨らみが、ひろしの背中に押し当てられ、彼女の激しい心拍を伝えていた。
「遥……? どうしたんだ、急に……気分でも悪いのか?」
ひろしの声には、明らかな戸惑いと、背中に感じる女性の感触への動揺が入り混じっていた。
「……ちがう、んです……。私……今日、どうしても……帰りたくなくて……」
遥は息を呑みながら、恥じらいと涙声が混ざった声音で訴えた。
彼女の小さな手が、無意識にすがるように、ひろしのベルトの上あたりを彷徨う。シャツ越しに感じる、震える指先の熱。どうしていいか分からないまま、遥の手は恐怖と熱に浮かされながら、ゆっくりと彼の腹部へと滑り落ちていった。
「遥……待て、そこは……」
ひろしの声が微かに震える。
遥の手は、無意識のうちに、ひろしの股間のあたりにまで触れてしまっていた。意図的な愛撫ではない。ただ、しがみつく場所を求めて彷徨った指先が、そこに行き着いてしまったのだ。
「……ごめんなさい……でも、胸が……どうにかなりそうで……」
囁きと共に、すがるような指先が、スラックスの布越しに硬い感触に触れる。
と、ひろしの身体が硬直した。遥の手が進むたび、ひろしの息が浅く、荒くなっていくのがわかる。
「……ひっ……」
遥は、自分の指先が触れたものの正体に気づき、小さく息を呑んだ。だが、恐怖で手を引っ込めるべきなのに、なぜか身体が金縛りに遭ったように動かない。
遥の高い体温と甘い肌の香りが、背中からひろしを包み込んでいる。背中越しに伝わる彼女の心音は、壊れそうなほどに早い。
その無垢で不器用な執着が、静まり返ったオフィスの空気を、決定的に別の色へと染め上げていく。
「こんなこと……初めて、です……。課長の背中……あったかくて……私……」
恥ずかしさと涙で滲んだ囁きが、ひろしの耳のすぐ後ろで熱く流れる。
ひろしの身体は、若い部下の無防備すぎる密着と、その指先の感触に、男として自然に反応してしまっていた。徐々にスラックス越しの膨らみが大きくなり、固さを増していくのを、遥の指先がはっきりと感じ取った。
思いがけない男性の生々しい感触を指の腹で直接感じ取り、遥は限界まで息を呑む。
遥の頭の中が真っ白になる。男性の身体が、自分という存在によってこれほどまでに変化することへの驚きと、未知の恐怖。
そのまま、遥は怯えるようにひろしの背中に隙間なく頬を寄せて離さなかった。まるで嵐に怯える子どものような、けれどどこか、本能的な女としての執着。
コピー機の無機質な光だけが、重なり合うふたりの影を長く伸ばしていた。
「遥……自分が何をしてるか、分かってるのか……?」
ひろしの問いかけは、もはや理性を保つための形だけのものだった。低くかすれた声は、明らかに欲望を帯びている。
「わかりません……。でも……課長じゃなきゃ、私……こんな風に、おかしくなったりしません……」
遥の過呼吸気味の熱い吐息が、ひろしの首筋にかかる。
遥の震える指先が、ひろしのベルトの上で硬直したまま動かせないでいると、ひろしの大きな手が、遥の小さな手の上にそっと重ねられた。
「……っ」
と、遥の肩が跳ねる。オフィスの空気が、限界まで張り詰める。
ひろしはその手を引き剥がすのではなく、逆に強く握りしめ、自分へと押し付けた。スラックス越しの、暴力的なまでの熱と硬さが、遥の手のひらにダイレクトに伝わってくる。
「……ぁ……」
遥の口から、小さく、甘い喘ぎのような声が漏れた。初めて触れる男性の生々しい熱さに、驚きと戸惑い、そして本能的な恐怖が彼女を支配する。でも、逃げ出したいとは思わなかった。
ひろしはその場に立ち尽くし、荒い息を吐きながら、遥のすべてを受け入れるしかなかった。いや、受け入れるというよりは、彼自身がもう限界だった。
コピー機の死角となる薄暗い空間で、ふたりの熱が混ざり合う。
ひろしはついに、遥の手を握ったまま振り返り、彼女の肩を強く掴んだ。
「……っ、課長……」
振り返ったひろしの目は、普段の優しい上司のものではなく、完全にオスとしての欲情に染まっていた。遥は恐怖で後ずさろうとしたが、腰を強く引き寄せられ、逃げ場を失う。
「遥……もう、後戻りできないぞ……」
ひろしの中で、最後の理性が音を立てて崩れ去っていく。熱を帯びた空気が、夜のオフィスを完全に支配していた。
遥は、ひろしのシャツ越しに伝わる腹筋の固さと、迫り来る圧倒的な威圧感に怯えながら、もう片方の手で自分の胸元のブラウスを強く握りしめていた。
未知の領域へ踏み込むことへの本能的な恐怖と、彼を求める甘い衝動が入り混じり、遥は小刻みに肩を震わせる。
瞳は恐怖と緊張で涙に濡れて、けれどそこには、これから起きることへの覚悟が、ほんの少しだけ宿っていた。
「……課長……私……」
言葉にならない悲鳴のような懇願。幼さと大人の女の狭間で揺れる、無垢な声。
そのまま、二人は言葉もなく、見つめ合いながら互いの熱を感じていた。深夜のオフィスに、危険な欲望の香りが静かに、しかし濃密に漂い始める。
コピー機の作動音が完全に静まり返ったとき、ふたりの理性が溶け合う音が、オフィスの闇に響いた。
だが――、彼らは気づいていなかった。
その密室の出来事が、完全にふたりだけの秘密ではなかったことに。
オフィスの入り口のガラス扉の向こう、暗闇に紛れた巡回中の警備員の影が、コピー機の裏で重なり合うふたりのシルエットを、じっと見つめていたことを。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。



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