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デリヘルで妹が!小遣い欲しさに「身体を差し出した」夜:vol.1(ホテルのドアの向こうにいたのは──妹だった)
残業の終わりは、決まって空しかった。
無機質な蛍光灯の下で延々と続く書類の山、理不尽な取引先への電話越しでの謝罪、そして何も結論が出ないまま時間だけが過ぎていく無駄な会議。誰に文句を言うでもなく、ひろしはただパソコンの冷たい画面と向き合い続けていた。
年齢は二十八歳。恋愛の思い出など、とうの昔に記憶の端にさえ浮かばなくなっている。女性経験といえば、たまに風俗店に通って処理する程度で、数えるほどしかなかった。本当は、他人に見栄を張れるほどの色気も、男としての自信もないのだと、自分自身が痛いほどよくわかっている。
夜十時を回った頃。駅までの薄暗い夜道を歩きながら、重い溜息が自然と漏れた。いつもなら、コンビニで代わり映えのしない弁当を買い、そのまま自宅のベッドへ直行して眠りにつく。それだけの単調な日々だ。
だが、今夜だけは何かが違っていた。胸の奥の底の方にべったりと溜まった、濁ったもやもやとした感情が、静かに破裂しそうだったのだ。ふと、無意識のうちにスマホをポケットから手に取る。指が、目的もなくアプリをいくつも開いては閉じるのを繰り返す。
妙に落ち着かず、なぜか心の中にぽっかりと大きな穴が空いたような、ひどく不安定な感覚。『自分だけの何かが欲しい』『この空虚な時間を、誰かの熱で埋めたい』──そんな衝動が、今までになく強くのしかかってくる。
『デリヘル 東京 新人』
検索エンジンの入力欄に、指先が微かに震えながら文字を打ち込む。ほんの悪戯心だった。それとも、誰にも見せたことのない孤独感の表れだったのかもしれない。画面の中に次々と現れるのは、顔の一部をスタンプで隠した女の子たちの写真。源氏名だけが派手に踊り、プロフィールの短い説明文が並んでいる。
『面接したばかり』『未経験』『初々しさ抜群の擦れっ枯らしゼロ!』
どれも客の目を引くための作り話のようで、現実感はひどく遠かった。だが、“新人”というふた文字には、今のひろしの心の隙間に深く入り込む、どうしようもない誘惑があった。
(どうせ、誰にバレるわけでもない……一晩だけの関係だ)
心のどこかで必死に自分に言い訳をしながら、近場のビジネスホテルを予約し、そのホテル名と部屋番号を入力する。サイトからの『ご予約完了いたしました』という無機質な通知画面が、わずかに手のひらの汗を増やす。
『20歳の新人が向かいます。ご期待ください』
顔も本名も、素性すら知らない相手。それが、今のひろしにはひどく気楽で、都合が良かった。
ホテルのロビーの時計の針が、夜の静けさを強調するように音を立てている。エレベーターに揺られて上がり、無機質なカーペットの敷かれた廊下を歩く。カードキーで部屋のドアを開け、内側からしっかりと鍵を閉めてから、やっと微かな現実感が戻ってきた。
ひろしは深く息を吐き、シーツのピンと張られた硬いベッドにドサリと腰を下ろした。足を投げ出し、染み一つない真っ白な天井を見上げる。不安と期待がぐるぐると脳内を回り続け、落ち着かずに何度もスマホを手に取り、時間を確認してしまう。
──どんな女の子が来るんだろう。
新人、顔も隠しているし、名前も源氏名だ。想像は際限なく膨らむばかりだ。普段なら絶対にしないような、あからさまな性欲処理の呼出しをしている自分に、強い戸惑いと自己嫌悪もあった。だが、知らない誰かと、ただ一晩だけ交差する。そんな夜があってもいいじゃないかと思った。金で買える一時的な温もりでも、今のひろしには必要だった。
やがて、部屋の静寂を切り裂くように、コンコン、と控えめにドアがノックされた。
ひろしは胸がドクンと大きく鳴るのを感じた。まだ心の準備が完全にできているわけではない。だけど、もう後戻りはできなかった。立ち上がり、ドアノブへ手を伸ばす。
「こんばんは……失礼、します」
ドアの向こうから聞こえたその声は、どこかで聞いたことがあるような気がした。いや、そんなはずはない。緊張のあまり気のせいだ。そう自分に言い聞かせて。
ゆっくりとドアが開いた。
最初は、ただ黒髪の小柄な女の子が、指定した通りの学生服のような衣装を着て立っているのが見えた。大きなマスク越しの、少し怯えたような目だけが見える。しっかりと前を向こうとする、どこかぎこちない仕草に、ひろしは得体の知れない違和感を覚えた。
そして、女の子もまた、ひろしの顔を見て大きく目を見開いた。
「──……え?」
一瞬、時が完全に止まったかのように感じた。周囲の音が全て消え去り、互いの呼吸音だけが耳に届く。
女の子が、まるで幽霊でも見たかのように、ひろしの顔を凝視している。その瞳に、強い驚きと、そして明らかな困惑が浮かび上がった。
「……お兄、ちゃん? なんで……」
震えた、掠れた声。マスク越しでもはっきりとわかる、実の妹・遥の声だった。
明らかに遥にとっても、完全に想定外の事態だった。遥は、店の人から『二十代後半の大人しそうな男性客』としか聞かされていなかったのだ。部屋番号もホテル名も、ただの派遣先の情報でしかない。
まさか、初めての仕事で緊張しながらドアを開けた先に、自分の実の兄が待っているなんて。
二人の間の空気が、急激に冷たくなり、そして直後に異様なほど熱くなる。心臓が痛いほどの早鐘を打っていた。
「……なんで、お前がこんなところに……」
ひろしは咄嗟に声を低くし、周囲を気にするように言った。妹とは、ここ数年ほとんどまともな会話もない。家族だからこそ、互いのプライベートには深く触れようとはしなかった。それが、今夜に限って、こんな最悪の形で交差してしまったのだ。
遥は、マスクの下で唇をかすかに噛みしめ、逃げ場を探すようにドアを背にして立ちすくんでいる。その華奢な肩が、小刻みに震えていた。
「……どうしよう……ほんと、最悪……っ」
お互い、息をするのすら気まずい。部屋の空気が鉛のように重くのしかかる。
「すぐ帰るわけにも、いかないんだよ……。お店の人に、時間までは絶対に部屋にいろって言われてるし……。それに、急に戻ったりしたら、店長にすごく怒られるから……」
遥の声はひどく小さく、かすかに震えていた。二人とも立ち尽くしたまま、重苦しい沈黙だけが部屋を支配する。
やがて遥は、諦めたようにゆっくりとマスクを外し、部屋の隅にある小さなテーブルの端にそっと座った。ひろしも、逃げるようにベッドに腰を下ろし直す。
「……今日のこと、絶対に、誰にも言わないでね」
遥が真剣な、すがるような目でひろしを見つめてくる。その瞳の奥には、わずかな涙が滲んでいるように見えた。
「お兄ちゃんも、……こんなとこで、何してるの?」
兄を責めるというより、現状を理解できずに本気で混乱しているようだった。ひろしは、下を向いたまま、ひねり出すように言葉を探す。
「……仕事で色々あってさ。なんか、こう……普段はやらないようなことを、衝動的にしたくなっただけだ。まさか、お前が来るなんて思わなかったし……」
それ以上の言い訳は、どうしても出てこなかった。風俗を呼んだ兄と、デリヘル嬢としてやってきた妹。どちらも弁解の余地などない。
遥は、少し間を置いてから、ふうと細い息をついた。
「……なんか、やだな」
それだけ呟いて、遥は自分の着ている制服風のスカートの裾を、指で所在なげにいじり始めた。沈黙は長い。部屋の備え付けのエアコンの作動音だけが、妙に大きく響いてくる。
やがて、遥が不意に顔を上げ、ひろしの方へ少しだけ身を乗り出した。その目は、どこか決意を秘めているようにも、ヤケになっているようにも見えた。
「ねぇ、お兄ちゃん。……せっかく呼んだんだから、無駄にしたくないんでしょ?」
その言い方は、無理して大人ぶっているような、仕事で教え込まれたばかりの台詞のようだった。
「……お小遣いくれたら、わたしがサービス、するよ」
サービス──。
そのたった一言の響きが、今まで保たれていた兄妹の境界線を簡単に揺るがしてしまう。ひろしは、予想だにしなかった言葉に何も言えずに固まった。
「お兄ちゃん、そういう目的あって呼んだんでしょ? ……どうせお店に代金の半分以上、取られちゃうし。それなら、私に直接ちょうだいよ」
遥の声は微かに震えていたが、どこか後戻りできない開き直りのようなものも感じられた。ひろしは知っている。遥が昔から、一度言い出したら聞かない頑固なところがあることを。
「……もちろん、私なんかとやりたくなかったら、いいけど。でも、今日の分のお小遣いは、絶対に私がもらわなきゃいけないから……っ」
本音と建前がぐちゃぐちゃに混じった、複雑すぎる感情。ひろしは手元の財布に視線を落とすが、まだ到底決断ができずにいる。
(妹が、こんな場所で、こんな提案をしてくるなんて……)
想像すらしたことのない夜。部屋の空気は、少しでも動けばガラスのように音を立てて割れてしまいそうに張り詰めている。それでも、二人とも席を立とうとはしない。
密室の静けさの中、ひろしの重い鼓動と、遥のかすかな、だが明らかな緊張を含んだ吐息だけが重なっていく。遥はまだ、男の人の肌にまともに触れたことさえないはずだ。それなのに、こんな密室で兄を相手に身体を売ろうとしている。
「……お兄ちゃん、どうするの……?」
遥が、不安げに上目遣いでひろしを見る。その真っ白な肌は、ホテルの間接照明に照らされて、ひどく無防備に思えた。まだ男を知らない、純潔そのものの妹。
ひろしはゆっくりと立ち上がり、ベッドから数歩歩いて、遥の前に立った。遥はビクッと肩を大きく震わせたが、逃げることはしなかった。ただ、ぎゅっと目を閉じ、震える両手で自らのスカートの端をきつく握りしめている。
ひろしの手が、遥の華奢な肩に触れる。薄いブラウス越しに伝わる体温は、驚くほど熱かった。
「……っ、ん……」
ただ肩に触れられただけで、遥の口から小さく怯えたような声が漏れる。極度の緊張からか、彼女の身体は強張っていた。
(俺は、狂っているのか……? 実の妹だぞ……)
心の中で何度もためらい、何度も倫理の距離をはかり直す。頭ではいけないことだとわかっているのに、目の前で目を閉じ、自分に身を委ねようとしている妹の姿が、ひろしのズボンの奥で熱を持ち始めた肉棒の疼きを、どうしても抑えきれなくさせていた。
ひろしはゆっくりと、遥のブラウスの第一ボタンに指をかける。遥は息を呑み、さらに身を硬くした。外されたボタンの隙間から、まだ誰にも見られたことのない蕾を隠す白い下着が微かに覗く。
二人の距離は、まだ決定的な一線を踏み越えることなく、ただ不安と期待、そして決して許されない禁断の緊張感だけが、部屋の隅々にまで静かに満ちていく。
──この夜の過ちが、ふたりに何を残すのか。まだ、誰にもわからなかった。

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