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【処女喪失】弱みを知られた上司に、二十七歳の初めてを教わる遥:vol.7(見えないまま当たるもの)
翌週の土曜、遥は桐生のマンションの玄関で、靴を脱ぐより先に目隠しをされた。ドアが閉まった瞬間だった。後ろから濃紺のネクタイが目元に回され、きゅっと結ばれる。今夜は、最後まで外さない、と桐生の声が耳元でした。
手を引かれて、廊下を歩いた。見えないまま歩く自分の部屋ではない廊下は、ひどく長く感じられた。何度か肩が壁に触れ、そのたびに桐生の手が遥の腰を引き寄せた。寝室に入ったのは、足の裏の感触がフローリングから柔らかなラグに変わったので分かった。
服を脱がされた。ブラウスのボタンが一つずつ外され、スカートが足元に落ち、下着が抜き取られる。どれも、ひどくゆっくりだった。見えないせいで、一枚脱がされるごとに、自分がどれだけ裸に近づいたのかを、肌の感覚だけで数えていた。
最後の一枚が足首から抜かれたとき、遥は自分が玄関から寝室まで、一度も自分の目で何も見ていないことに気づいた。桐生の部屋の壁の色も、ベッドカバーの柄も、今夜は何も知らない。知っているのは、肌に触れるものと、耳に届く音だけだった。
ベッドに横たえられた。シーツが背中に冷たかった。桐生の手が離れ、気配が遠ざかった。遥は闇の中で耳を澄ませた。足音。引き出しを開ける音。何かを取り出す音。それが何なのか、遥には分からなかった。分からないことが、身体の奥をじわりと熱くした。
「……何を、出したんですか」
教えない、と桐生は言った。約束だろう。遥は唇を噛んだ。そうだった。自分で、教えないでくれと言ったのだ。ベッドが沈み、桐生が戻ってきた気配がした。遥の膝に、手のひらが置かれた。それから、膝がゆっくりと左右に開かれた。
最初に入口に触れたのは、冷たいものだった。遥はびくりと腰を跳ねさせた。硬くはない。ぬるりとしていて、ひんやりと冷たい。それが入口の縁に塗り広げられていく。指の感触だった。けれど、指に何かが付いている。冷たくて、とろりとしたもの。
潤滑のためのものだ、と桐生が言った。初めてなら、念のために。遥はほっと息をついた。それから、ほっとした自分を恥ずかしく思った。何が来ると思っていたのだろう。冷たいものは、遥の熱でたちまち温まり、自分の濡れと混ざり合っていった。
この一週間、遥は毎晩、目を閉じて眠りにつくたびに、今夜のことを考えた。暗闇の中で、何が来るのか。考えるだけで、布団の中で脚の間が熱くなった。指で触れることはしなかった。触れたら、今夜まで待てなくなる気がした。その一週間ぶんの熱が、今、闇の中で一気に溢れ出していた。
指が、入口から離れた。また、何もない時間。遥は脚を開いたまま、闇の中で待った。次は何か。指か、舌か、それとも。考えるたびに、入口がひくひくと動いた。見えないのに、自分のそこが待ちわびて開いているのが分かった。
次に触れたのは、柔らかく、温かく、濡れたものだった。舌だ、と遥は思った。入口の縁を、ゆっくりと一周なぞる。それから、入口の真ん中に先を押し当て、ほんの少しだけ中へ差し込んだ。遥は声を上げた。舌が、中に入ってくるなんて。
けれど、次の瞬間、遥は分からなくなった。中に入っているのは、本当に舌なのか。指先なのか。柔らかいのに、少し硬い気もする。温かいのに、少し冷たい気もする。見えないせいで、感覚が混線していた。確かめようとすればするほど、正体が分からなくなっていった。
「部長、今の、なに……っ」
当ててみろ、と桐生が言った。声は、遥の脚の間ではなく、耳元から聞こえた。遥は混乱した。耳元にいるなら、今、脚の間にあるのは何なのか。指だった。耳元で囁きながら、手を伸ばして、指先だけを入れていたのだ。分かった瞬間、遥の顔がかっと熱くなった。
騙された、と思った。けれど、怒る気持ちは少しも湧かなかった。代わりに、自分が何も分かっていないという事実が、遥の身体をいっそう敏感にした。闇の中で、遥は桐生の手のひらの上で転がされている。そのことが、悔しいほど心地よかった。
分からないまま、遥は何度もイかされかけた。指だと思ったら舌で、舌だと思ったら指だった。入口を探られ、突起を撫でられ、中を広げられる。どれも、正体が分かった瞬間には、もう次の何かに変わっていた。遥の身体は、分からないものに次々と開かされていった。
濡れが、シーツに広い染みを作っていた。冷たい潤滑と、自分の溢れたものが混ざり合い、太ももの裏までぬるぬるに濡れていた。遥は闇の中で、自分の脚の間がどれほど濡れているのかを想像して、恥ずかしさに首を振った。それでも、脚は閉じなかった。
ふいに、すべての刺激が止まった。遥は息を詰めた。ベッドが少し揺れ、桐生が身体の位置を変える気配がした。小さな包みを破る音。遥はその音を知っていた。避妊具の封を切る音だった。心臓が、喉元まで跳ね上がった。
脚の間に、何かが当てられた。指でも舌でもなかった。丸くて、硬くて、熱い。遥の入口に、ぴたりと押し当てられている。見えなくても、それが何なのかはすぐに分かった。指よりもずっと太い。入口全体が、その丸みに押されて、わずかに窪んでいた。
どくん、と先端が脈打った。その脈が、入口の襞を通して、遥の身体の奥まで響いてきた。指ではありえない、生きている脈だった。遥の喉が、こくりと鳴った。見えないのに、それがどんな形をしているのか、入口がもう知っていた。
「……これ、は……」
何だと思う、と桐生が聞いた。答えなくても分かっていた。遥は唇を震わせたまま、答えられなかった。答えたら、本当にそれになってしまう気がした。桐生は先端を入口に当てたまま、少しも動かなかった。遥の答えを待っていた。
一か月前の遥なら、この瞬間に身体が固まっていただろう。いつも、最後の手前で。相手の顔が見えるから、自分の顔を見られるから、怖くなった。けれど今は、何も見えなかった。見えるのは、紺色の闇だけ。その闇の中で、身体だけが、まっすぐに答えを出していた。
入口が、当てられた先端に吸いつくように、ひくりと動いた。遥自身にも、それが分かった。怖さよりも、欲しさのほうが、ずっと大きかった。見えないまま、全部を感じたい。何も見ないまま、身体の一番奥で、初めてを覚えたい。
「見えないまま、ください」
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
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