▶ 名前変換:入力フォームを開く
【騎乗位】自分で腰を沈めるしかない遥:vol.7(残り十秒)
扉の向こうの人影は、ずいぶん長いあいだ、そこに立っていたような気がした。実際には、ほんの十秒か二十秒だったのかもしれない。それでも、そのあいだ遥は一度も腰を止めず、鏡の中の自分を見つめ、男の数える拍子に合わせて、上げては落とし続けた。息を殺し、唇を噛み、声を飲み込みながら。その十秒が、遥にとっては、今夜で一番長い時間だった。
長い沈黙のあと、扉の向こうの人影が、ゆっくりと離れていった。スリッパの足音が洗面所のほうへ遠ざかり、引き戸の閉まる音がする。遥は全身の力が抜けそうになったが、腰の動きは止めなかった。止めないまま、鏡の中の自分が、安堵とも失望ともつかない顔で、細く長い息を吐くのを見ていた。見られていたかもしれないという恐怖が、まだ下腹の奥で熱く燻っていた。
「残り三十」と堂島が言った。遥はぼんやりと、男の胸の上の数字を見た。いつのまに、そんなに減っていたのだろう。三十秒。それが終われば、延長した時間も終わる。そう思った瞬間、遥は自分が、その終わりを惜しんでいることに気づいた。中に収まった男のものが、もうすぐ離れていく。それが、ひどく寂しいことのように感じられた。
人影が去ったあとも、遥の心臓はしばらく激しく打ち続けていた。磨りガラスの向こうに立っていたのが誰だったのか、遥にはもう確かめようがない。美咲だったのか、一階の誰かだったのか。明日の朝、洗面所ですれ違ったとき、その人がどんな目で自分を見るのかを想像して、遥は思わず男の胸についた手に力を込めた。中の男のものが、それに応えるように、わずかに跳ねた。
一、二、三。拍子は、もう数えられなくても身体が覚えていた。持ち上げて、落とす。持ち上げて、落とす。奥を突かれるたびに溜まっていく熱が、下腹の底で行き場を失って渦を巻いている。鏡の中の女は、口を半開きにして、焦点の合わない目でこちらを見つめていた。それが自分の顔だと思うと、恥ずかしさで頭が焼けそうになるのに、目を逸らすことはできなかった。
「二十」。男の声が、さっきより明らかに低く掠れていた。遥が腰を落とすたびに、中の男のものがわずかに膨らむのが分かった。先端が奥の壁に触れるたびに、熱い脈が伝わってくる。動かない男の身体の中で、何かが限界に近づいている。それを、遥は自分の内側の肉で感じ取っていた。自分の腰が、この男をここまで追い詰めたのだと思うと、背筋が震えた。
二十秒。その数字を聞いたとき、遥は自分の腰が、残りの時間を惜しむように、ほんの少しだけ遅くなっていることに気づいた。速く動けば、早く終わってしまう。そう思ったのかもしれない。遥は自分の身体のずるさに呆れながら、それでも、その遅さを少しも直そうとはしなかった。
「十」。堂島が、初めて口元を歪めた。笑ったのかどうかは分からなかった。「中に出すぞ。嫌なら今のうちに降りろ」。遥の腰が、一瞬だけ止まりかけた。中に。その言葉の意味を、遥は鏡の中の自分の顔を見つめたまま考えた。降りれば、それで終わる。降りなければ、この男のものを、奥で受け止めることになる。
腰を落とすたびに、遥は自分の中の男のものが、少しずつ形を変えていくのを感じていた。根元のほうが太くなり、先端がさらに熱を帯びていく。奥の壁に触れるたびに、そこから伝わる脈が、だんだんと速く、強くなっていく。遥はその変化を、自分の内側の肉で一つ残らず受け止めていた。男が限界に近づいていることを、言葉よりも先に、身体が知っていた。
遥は降りなかった。答える代わりに、膝に力を込めて、また腰を持ち上げた。鏡の中の自分と目を合わせたまま、ゆっくりと落とす。奥に届いた瞬間、中の男のものが大きく跳ねた。「……いい、です」と、自分の口から掠れた声が漏れた。何がいいのか、自分でもはっきりとは分からなかった。ただ、ここで降りるという選択肢だけは、もう身体のどこにも残っていなかった。
「九、八」。数える声が、途切れ途切れになっていく。遥は持ち上げては落とし、持ち上げては落とした。拍子はもう乱れていた。速くなっているのは自分の腰のほうだった。鏡の中で、揺れる胸と、濡れて光る結合部と、とろけかけた自分の顔が、ひとつの絵になって重なっている。この光景を、自分は一生忘れられないだろうと遥は思った。
自分の口から出た言葉に、遥自身が一番驚いていた。いいです。その一言で、自分がこの男のすべてを受け入れたことになる。翔太の顔が一瞬だけ頭をよぎったが、すぐに奥を突かれる感覚にかき消された。後悔するかもしれない、と頭のどこかで思った。けれど、それでも構わないと思えるほど、今のこの瞬間が、遥にはどうしようもなく大切に感じられた。
「七、六、五」。下腹の奥の熱が、もう溢れそうになっていた。遥は男の胸についた手に力を込め、最後の数回を、自分の重さをすべて乗せて落とした。奥を突かれるたびに、目の前で白い光が弾ける。男の喉が大きく上下し、肘掛けの代わりに畳を握った指先が、白くなるほど力んでいる。動かないはずの男の身体が、遥の下で小刻みに震え始めていた。
鏡の中では、遥の腰の動きに合わせて、男の下腹がわずかに浮き上がりかけては、また畳に沈んでいた。動かないと約束した男が、それでも抑えきれずに腰を浮かせかけている。その姿が鏡の端に映るたびに、遥の下腹の奥で何かが弾けそうになった。男の身体の限界と、自分の身体の限界とが、同じ場所へ向かって急速に近づいていくのが分かった。
「四、三」。男の声がそこで途切れた。中の男のものが、これまでで一番大きく膨らみ、奥の壁に先端を押しつけたまま、硬く張りつめる。遥は鏡の中の自分と目を合わせたまま、最後の一回のために、腰を持ち上げた。落とせば、すべてが終わる。そして、すべてが始まる。遥は息を止め、鏡の中の女が同じように息を止めるのを見つめた。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。



コメント