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【処女喪失・羞恥】トイレの声を用務員に聞かれた、うぶな女子大生・遥:vol.1(四階のトイレ)
▶ 選んで結末が変わる物語(全12話・6結末)
水曜の三限は、遥にとって週に一度の空きコマだった。図書館棟の四階は、古い全集と郷土資料の書架しかなく、昼過ぎになると人の気配がほとんど消える。その階の奥に、誰も使わない女子トイレがあった。遥がそれを見つけたのは、二年の秋だった。
個室に入り、鍵をかける。便座の蓋を下ろしたまま腰を下ろし、スマホを開く。読みかけの小説の続きが、画面に浮かんだ。恋人同士が、初めて夜を過ごす場面だった。遥は唇を噛み、ページを指で送った。
二十一年間、恋人がいたことは一度もない。キスもしたことがない。友達の話についていけないので、こうして小説で、少しずつ知っていった。どこに触れるのか。どんな声が出るのか。全部、文字の中でしか知らなかった。
読んでいるうちに、脚の間がむずむずと熱くなってきた。遥はスカートの裾をそっと持ち上げ、下着の上から指を当てた。布越しに触れると、もう湿っていた。こんな場所で、と思う。思うのに、指は止まらなかった。
ここなら、誰にも分からない。半年間、そう思ってきた。指を下着の中に滑り込ませると、ぬるりとした感触があった。小説の中の女の人と同じように、小さな突起を探して撫でる。息が、少しずつ浅くなっていった。
「ん……っ」
声が漏れた。慌てて片手で口を押さえる。けれど、指は止められなかった。画面の文字が滲んでいく。もうすぐ、あと少し。腰が勝手に浮き、便座の蓋がかたりと鳴った。遥は口を押さえたまま、小さく喉を鳴らした。
そのとき、扉の外で、何かが床を擦る音が止まった。遥の全身が凍りついた。モップだ、と遅れて気づいた。さっきから、ずっと聞こえていたのかもしれない。夢中で、気づかなかった。指が、下着の中で止まった。
足音が、個室の前で止まった。低い男の声がした。大丈夫か。具合でも悪いのか。声は落ち着いていて、心配しているようにも、何かに気づいているようにも聞こえた。遥は息を止めた。心臓の音が、扉の外まで聞こえそうだった。
「だ、大丈夫、です……っ」
声が裏返った。少しの間があって、そうか、と男は言った。それから、モップの音が遠ざかっていった。遥は個室の中で、指を下着に入れたまま、しばらく動けなかった。顔から火が出そうだった。
震える手で服を直し、個室を出た。手を洗いながら、鏡の中の自分を見る。耳まで真っ赤だった。廊下に出ると、突き当たりに、紺の作業着を着た男が立っていた。用務員の岩城さんだと、名札で分かった。五十を過ぎたくらいの、無口そうな人だった。
岩城は遥のほうを一瞬だけ見て、すぐに窓の外へ目を逸らした。その逸らし方で、全部聞かれていたのだと分かった。遥はその場に立ち尽くした。逃げたい。けれど、このまま逃げたら、明日からこの階に来られない。
▶ 別の道へ飛ぶなら
→ 「……失礼しますっ」
(このまま読み進めてもOK)
「あの……さっきの、聞こえてましたか」
自分でも信じられない言葉が、口から出ていた。岩城はゆっくりと遥のほうへ向き直った。モップの柄に両手を重ね、少しのあいだ黙っていた。それから、聞こえた、と短く答えた。ごまかしも、笑いもない声だった。
頬から耳まで、かっと熱くなった。聞こえた。やっぱり。全部。床に穴があったら入りたかった。けれど岩城は、それ以上何も言わなかった。からかう様子も、気持ち悪がる様子もない。ただ、窓から入る光の中に立っていた。
誰にも言わん、と岩城は言った。ここは人が来んから、気が緩むのも分かる。けど、次から気をつけな。それだけ言って、岩城はモップを持ち直した。話はそれで終わり、という態度だった。遥はとっさに、その背中を呼び止めていた。
「あ、あの……私、変ですか」
岩城の足が止まった。振り返った顔に、初めて戸惑いのようなものが浮かんでいた。何が、と聞かれる。遥は俯いた。ああいうことを、学校のトイレでするのは。いや、そもそも、ああいうことをするのは。二十一にもなって、何も知らないのに。
自分が何を聞いているのか、遥にもよく分からなかった。友達には聞けないことだった。母親にも、もちろん聞けない。それを、さっき初めて名前を知った用務員の人に聞いている。おかしいのは分かっていた。でも、止まらなかった。
変じゃない、と岩城は言った。ぶっきらぼうな声だった。人間なら誰でもすることだ。ただ、場所は選べ。そう言って、岩城は少しだけ顔をしかめた。こういう話を、自分みたいな年寄りにするもんじゃない、と付け足した。
その言い方が、なぜか遥の胸に刺さった。年寄り、と自分で言う人。けれど、遥の目には、日焼けした太い腕と、作業着の上からでも分かる広い背中が映っていた。この人に、全部聞かれた。その事実が、あらためて遥の身体を熱くした。
脚の間が、またじわりと湿り始めた。遥は慌てて膝を閉じた。こんなときに、どうして。恥ずかしいのに、恥ずかしいと思うほど、そこが熱くなっていく。さっきトイレで途中までだった熱が、まだ身体の奥でくすぶっていた。
岩城は、遥の様子に気づいたのか、気づかなかったのか、また窓の外へ目を向けた。昼休みが終わる、と言った。授業はないのか。遥は首を振った。三限は空いている。そう答えてから、何を答えているのだろうと思った。
岩城は、階段のほうを顎で示した。用務員室は一階の裏だ、と言った。何か困ったことがあったら来ればいい。鍵の不具合とか、電球とか。それだけ言って、モップを押しながら廊下を去っていった。
ひとりになった廊下で、遥は窓ガラスに映る自分の顔を見た。泣きそうな顔をしていた。なのに、どこか、ほっとしてもいた。
遥は、その背中が角を曲がるまで見送った。用務員室。一階の裏。行く理由なんて、何もない。けれど、遥の頭の中では、さっき聞かれた自分の声が、何度も何度も繰り返されていた。それを聞いた人が、一階の裏にいる。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。




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