【攻め・謝罪】「誠意は?」と聞かれた営業の遥が、取引先の社長に自分から跨る:vol.1(社長室の「誠意は?」)

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【攻め・謝罪】「誠意は?」と聞かれた営業の遥が、取引先の社長に自分から跨る:vol.1(社長室の「誠意は?」)

▶ 選んで結末が変わる物語(全12話・6結末)

展示会の初日、黒崎家具のブースには、ソファが一脚も届いていなかった。トラックの運行表に、遥が一日ずれた日付を打ち込んでいたからだ。気づいたのは朝の七時だった。遥は倉庫に電話をかけ、空いているトラックを三台かき集め、自分も助手席に乗って会場へ走った。

商品が並んだのは、開場の四十分後だった。最初の客の波は、空っぽのブースの前を素通りしていった。黒崎社長は一言も文句を言わなかった。ただ、腕を組んで、遥が汗だくでソファの脚を締めているのを、黙って見下ろしていた。

その夜、遥は一人で黒崎家具の本社を訪ねた。課長は明日一緒に行こうと言った。けれど、待てなかった。自分のミスだった。誰かの背中に隠れて頭を下げるのは、遥のやり方ではなかった。

社長室は、本社の最上階にあった。壁には自社の椅子が三脚、作品のように飾られている。黒崎は窓を背にした大きな机の向こうに座っていた。五十四歳。白いものの混じった短い髪に、袖をまくった白いシャツ。展示会場で見たときより、少し疲れて見えた。

「このたびは、本当に申し訳ございませんでした」

遥は深く腰を折った。原因と経緯を話し、再発防止の案を三つ並べた。運行表の二重確認。前日の電話確認。それから、搬入には必ず自分が立ち会うこと。話しながら、顔を上げなかった。黒崎の視線が、頭の上にずっと乗っているのを感じていた。

話し終えても、黒崎はしばらく黙っていた。万年筆の先で、机を一度だけ軽く叩く。それから、低い声で言った。それで、誠意は。遥は顔を上げた。黒崎の目は、怒ってはいなかった。試すような、測るような目だった。

誠意。遥はその言葉を、頭の中で何度か転がした。再発防止なら、もう話した。値引きの話なら、課長の決裁がいる。この人が聞きたいのは、きっとそういうことではない。言葉ではなく、遥自身が何を差し出すのかを見ている。そう思った。

本当のことを言えば、この人に初めて会った日から、ずっと気になっていた。商談の席で、職人の話をするときだけ声が柔らかくなる。遥の提案書の誤字を、赤ペンで黙って直して返してきた。あの太い指が、紙の上をなぞるのを、遥は何度も盗み見ていた。

二十九年、欲しいものは自分で取りにいってきた。仕事も、男も。待っているだけで手に入るものなど、ほとんどなかった。今夜、頭を下げに来たのは本当だった。けれど、それだけでもなかったのだと、遥は今になって気づいた。

「誠意、ですね」

遥はゆっくりとジャケットのボタンに指をかけた。一つ外す。黒崎の眉が、わずかに動いた。もう一つ外す。ジャケットの前が開き、白いブラウスがのぞいた。社長室の空調の音だけが、やけに大きく聞こえた。

黒崎は何も言わなかった。止めもしなかった。ただ、万年筆を机に置き、椅子の背にもたれて遥を見ていた。その目が、さっきまでとは少し違う色をしていた。遥はジャケットを肩から滑らせ、応接ソファの背にそっと掛けた。

ブラウスの一番上のボタンに、指が触れた。心臓が速く打っていた。怖いのではなかった。この人がどんな顔をするのか、見たくてたまらなかった。遥は黒崎の目をまっすぐ見たまま、唇の端を少しだけ上げた。

▶ 別の道へ飛ぶなら
→ 「今日は、失礼します」
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「……誠意、お見せしますね」

ブラウスのボタンを、上から順に外していく。三つ目で、黒い下着のレースがのぞいた。黒崎がようやく口を開いた。待て、と低く言う。遥は手を止めなかった。四つ目、五つ目。ブラウスの前が、すっかり開いた。

黒崎は椅子から立ち上がり、机を回って遥の前に来た。近くで見ると、思っていたより背が高い。勘違いするな、と黒崎は言った。俺が聞いたのは、そういう意味じゃない。契約は切らない。最初からそのつもりだ。体で埋め合わせをさせる気もない。

「知ってます」

遥はあっさりと答えた。黒崎の目が、わずかに見開かれた。社長がそういう人じゃないのは、知ってます。だから、です。取引じゃありません。契約のためでもありません。私が、こうしたいんです。

言葉にしてしまうと、腹の底が据わった。遥はブラウスを肩から落とし、ソファの背のジャケットの上に重ねた。黒いレースの下着と、膝丈のスカート。社長室の白い明かりの下で、遥は背筋を伸ばして立っていた。

黒崎は長いあいだ遥を見ていた。目を逸らさなかった。逸らさないところが、この人らしいと遥は思った。やがて、黒崎は小さく息を吐いた。困った営業だな、と言う。声に、ほんの少しだけ笑いが混じっていた。

「嫌なら、今すぐ服を着て帰ります」

遥はそう言って、一歩近づいた。黒崎のシャツの胸元に、指先を当てる。糊のきいた布の下で、心臓が打っているのが分かった。速かった。この人も、平気ではないのだ。そう分かった瞬間、遥の中で何かに火がついた。

嫌だとは言っていない、と黒崎が言った。それを聞いて、遥は爪先立ちになった。黒崎の首に片手を回し、引き寄せる。唇を重ねたのは、遥のほうからだった。煙草ではなく、苦いコーヒーの味がした。

最初、黒崎の唇は動かなかった。遥は構わず、下唇を軽く挟んで吸った。舌の先で、閉じた唇の合わせ目をなぞる。三度目で、黒崎の口が開いた。大きな手が、遥の腰を掴んだ。今度は、黒崎のほうから深く舌を差し込んできた。

遥は小さく笑い、その舌を絡め取った。主導権を渡すつもりはなかった。黒崎の舌を吸い、離し、また唇を甘く噛む。腰を掴む手に、ぐっと力がこもった。スカート越しに、黒崎の下腹が硬くなっていくのが伝わってきた。

唇を離すと、黒崎の息が少し乱れていた。眉間に皺を寄せ、遥を見下ろしている。怒っている顔ではなかった。我慢している顔だった。遥は、その顔をもっと崩してみたくなった。黒崎のネクタイの結び目に、人差し指を引っかけた。

「社長、どうしましょうか」

遥は首を傾げて聞いた。決めるのは自分だと、二人とも分かっていた。黒崎は答えなかった。ただ、遥の腰に回した手を離さなかった。それが答えだった。遥はネクタイを指に絡めたまま、社長室の大きな椅子と、黒崎の顔とを見比べた。

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