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【処女喪失・撮影】嫌と言えない遥が、カタログ撮影の代役で初めてを撮られる:vol.2(更衣室の鏡)
「着替えだけ、一人でさせてください」
小さな声だったが、湊は頷いた。更衣室を使ってください、と言い、三上たちに向かって、準備に少し時間をもらいます、と告げた。三上は肩をすくめた。遥は白いレースのセットを抱えて、スタジオの奥の更衣室へ逃げ込んだ。
ドアを閉めると、壁一面の鏡が目に入った。遥は服を脱ぎ、レースのセットを身に着けた。ホックを留め、肩紐を直し、最後に鏡の前に立った。そこに映った自分を見て、遥は息を呑んだ。
思っていたよりも、ずっと透けていた。胸の先端の色が、花模様の隙間からうっすらと見える。ショーツの前の部分は、薄いレースが一枚だけで、その下の茂みの影まで映っていた。これを着て、皆の前に出る。考えただけで、膝が震えた。
鏡の中の自分から、目が離せなかった。照明の下に立ったら、もっと透けるだろう。三上たちが見る。湊が見る。レンズ越しに、隅々まで。その光景を想像した瞬間、脚の間がじわりと熱くなった。遥は鏡の中で、自分の太ももがきゅっと閉じるのを見た。
だめだ、と遥は思った。よりによって、こんなときに。けれど、熱はもう止まらなかった。薄いレースの内側が、少しずつ湿っていく。鏡に近づいて見ると、ショーツの真ん中に、小さな濃い色の染みが浮かんでいた。
白い生地だから、余計に目立つ。照明の下に立てば、カメラには間違いなく写る。三上たちにも、きっと見える。そう考えるたびに、染みはじわじわと広がっていくようだった。遥は鏡の前で、どうすることもできずに立ち尽くしていた。
「うそ……まだ、何もしてないのに」
遥は鏡の前で、両手で顔を覆った。見られる想像だけで、こんなふうになる。二十三にもなって、男の人に触れられたこともないのに。この体質が、ずっと恥ずかしかった。今日ほど、それを呪ったことはなかった。
大学に入ったばかりの頃、友達と恋愛映画を観に行ったことがある。帰り道、下着が濡れていることに気づいて、トイレに駆け込んだ。誰にも言えなかった。自分だけがおかしいのだと思った。その秘密を、二十三になった今も、遥はひとりで抱えていた。
ティッシュで押さえても、染みは消えなかった。押さえた指先が、ぬるりと滑った。遥は慌てて手を離した。触ったら、もっとひどくなる気がした。鏡の中の染みは、さっきよりも少し大きくなっていた。
このまま出ていくしかない。代役を引き受けたのは自分だ。今さら、やっぱり無理ですとは言えない。いつもそうやって、言えないまま何でも引き受けてきた。遥は鏡の中の自分に、小さく息を吐いた。
そのとき、ドアがノックされた。遥は飛び上がりそうになった。湊の声だった。先輩たちは昼に出ました、と彼は言った。照明を替えるので、三十分ほど二人だけです。急がなくていい。出られそうになったら、出てきてください。
二人だけ。その言葉を、遥は鏡の前で繰り返した。三上たちの目はない。湊の目だけ。それなら、と思いかけて、遥はショーツの染みを見下ろした。湊には、これが見えてしまう。カメラマンなのだから、見逃すはずがない。
遥はドアに近づき、ほんの少しだけ開けた。隙間の向こうに、湊が立っていた。遥の顔を見て、それから一度だけ、視線を下へ落とした。湊は黙って、遥が口を開くのを待っていた。
▶ 別の道へ飛ぶなら
→ 「……見ても、いいです」
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湊は棚の引き出しを開け、黒い布の包みを取り出した。予備のサンプルです、と言い、遥に手渡した。同じデザインの、黒いレース。黒なら、目立ちません。それだけ言って、スタジオの隅の衝立を指さした。あの陰で着替えてください。
遥は衝立の陰に入り、白いショーツを脱いだ。脱いだ布の内側が、思っていた以上に濡れていた。慌ててそれを丸め、黒いショーツに脚を通す。衝立の向こうで、湊が照明を動かす音がしていた。こちらを覗く気配は、少しもなかった。
その気配のなさに、遥は少しだけ安心した。安心したら、なぜか口が勝手に動いていた。衝立越しに、遥は小さな声で話し始めた。昔から、すぐにこうなってしまうこと。恋愛映画を観ただけで、濡れてしまうこと。自分がおかしいのではないかと、ずっと思っていたこと。
「それに私……まだ、誰とも、したことがなくて」
言ってから、遥は衝立の陰で顔を覆った。どうして、初めて会った人にこんなことを話しているのだろう。照明を動かす音が、止まった。湊は少しのあいだ黙っていた。それから、おかしくないですよ、と静かに言った。
濡れやすいのは、体質です。恥ずかしいことじゃない。カメラマンとして何百人も撮ってきたけれど、緊張すると身体が先に反応する人は、珍しくない。湊の声は、照明の数値を読み上げるときと同じくらい、淡々としていた。その淡々とした調子が、遥にはありがたかった。
遥は黒いショーツの上から、そっと手を当てた。まだ、熱かった。それから、もう一つ、言わなければいけない気がした。三上に頼まれると、何でも引き受けてしまうこと。嫌だと思っても、口からは、はい、しか出てこないこと。今日の代役も、本当は。
衝立の向こうで、湊が小さく息を吐いた。それなら、と湊は言った。今日は、断る練習をしましょう。僕が何かを頼んだら、本当に嫌なときは、嫌と言ってください。嫌と言っても、僕は怒らない。何も変わらない。それを、確かめてください。
「……練習、ですか」
遥は衝立から出た。黒いレースに包まれた身体を、照明の下に晒す。湊はカメラを手に取り、遥を見た。じゃあ、最初の頼みです、と彼は言った。そのまま、背景紙の前に立ってもらえますか。嫌なら、嫌と言っていい。
遥は口を開きかけて、閉じた。嫌ではなかった。むしろ、立ちたかった。嫌ではないときに、はい、と言う。それは、いつもの、はい、とは違う。遥は背景紙の中央へ歩き、湊のほうを向いた。今度の、はい、は、自分で選んだ言葉だった。
シャッターが鳴った。黒いレースは、白よりもずっと肌の白さを際立たせた。湊は二枚、三枚と撮り、それから、膝を少し開いてもらえますか、と言った。遥は、自分の胸の中を確かめた。嫌ではない。遥は、ゆっくりと膝を開いた。
黒い布地の内側で、また熱が溢れた。今度は、隠そうとは思わなかった。廊下の向こうから、三上たちの笑い声が近づいてきた。昼から戻ってくる。湊はカメラを下ろし、遥にガウンを渡した。この先のことは聞かずに、遥の口が開くのを待っていた。
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