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【眠る妹への禁断の夜】兄の歪んだ衝動と睡眠薬の罠:vol.2(そっとキスをする)
遥の顔が、こんなに近くにある。
ひろしは息を殺したまま、膝をついてソファの傍に屈み込んでいた。眠り続ける妹の寝顔が、手を伸ばせば届く距離にある。閉じたまつ毛。わずかに開いた唇。鼻先まで届く、シャンプーの残り香とバイト帰りの疲れた汗の匂い。普段なら絶対にこんな距離を許されない。話しかければ壁を作られ、目が合えば視線を逸らされる。そういう距離を、ひろしはずっと保ってきた。保たざるを得なかった。
今夜だけは、違う。
ひろしの右手が遥の頬に触れたまま、微動だにしていなかった。触れている。本物の遥の皮膚に。その事実だけが、脳の中で何度も繰り返されていた。童貞の二十年間で、女性にこれだけ近づいたことは一度もない。ましてや、これだけ長く触れていたことなど。指の腹を通して伝わってくる、柔らかくて温かい皮膚の感触が、ひろしの思考をゆっくりと侵食していく。
ひろしはためらいながらも、さらに顔を近づけた。
自問する意味はなかった。答えはもう出ていた。ひろしは遥の頬から指先をそっと引いて、ソファの端に手をついた。上体をゆっくりと前へ傾ける。遥の吐息が近づいてくる。温かい。眠っている人間の、無防備で柔らかい吐息。アルコールのかすかな甘みを含んだ、若い女性の呼気が、ひろしの鼻腔を直接満たす。
唇が、触れた。
本当に、そっと。羽が落ちるくらいの軽さで。
ひろしは息を止めた。遥の唇は驚くほど柔らかかった。アルコールで微かに湿った、生きた人間の粘膜の柔らかさ。それが今、自分の唇に重なっている。妹の唇が。思考が一瞬、真白になった。これが本物の感触だ。これまで想像の中でしか持ったことのなかった感触が、今、確かに唇の表面に刻まれている。
「……ん……」
小さな声だった。眠ったままの、夢の中の声。ひろしは石になったように動けなかった。数秒間、唇を重ねたまま、遥の変化だけを待った。まつ毛は動かない。呼吸のリズムは変わらない。緩やかで、深い。睡眠薬が効いている。アルコールも加わって、遥の意識は今夜もう戻らない。
遥はまだ、眠っている。
腹の底で何かが溶けていく感覚があった。罪悪感とは少し違う。後ろめたさというより、禁じられた場所にいる興奮に近いものだった。ひろしは唇をゆっくりと離した。わずかな湿り気が唇に残る。遥の吐息の熱が、まだひろしの口元にかかっている気がした。手の甲で口元を拭おうとして、やめた。この感触を消したくなかった。
遥の顔を見下ろす。
何も変わっていない。眠ったまま。ひろしのことを嫌いなまま、ただ眠っている。いつものように眉根を寄せることもなく、「うるさい」と言うこともなく、ただ目を閉じたまま穏やかに呼吸している。その顔が、ひろしには少し見慣れない表情に見えた。普段の遥の顔は、ひろしに向けられるとき必ず何かが閉じている。今夜だけは、その扉がない。
もう一度、触れたいと思った。
今度は少しだけ、長く。
ひろしは再び顔を近づけた。遥の唇へ、二度目のキスを落とす。一度目よりほんの少しだけ長く。唇の柔らかさが再び伝わってくる。遥の鼻先が、ひろしの頬にかかるほどの距離。それだけで、耳の奥に自分の心臓の音が響いた。手も足も震えていた。これほど緊張しているのに、止まれなかった。
「……んぅ……」
また、声が漏れた。苦しそうでも、気持ちよさそうでもない、ただ何かを感じた、という声だった。ひろしは唇を離さずにいた。離せなかった、という方が正確だ。遥の吐息が自分の口元に混じり込む。アルコールの甘さと、眠っている人間特有の体温。それが今、ひろしの感覚を直接支配している。
遥の意識は、深い泥の底にあった。唇に何かが重なっている感触は、薄く、遠く届いていた。しかし、アルコールと睡眠薬に侵食された脳は、それを危険信号として処理できない。ただ息が少し苦しい、という感覚だけが夢の中に混じり込んでいた。身体のどこかで何かを感じているが、目覚めるほどの信号にはならない。全身の筋肉が弛緩しきっており、遥の体は抵抗する術を持たなかった。
ひろしは三度目のキスを落とした。
今度は、少し角度を変えて。遥の下唇をわずかに挟むようにして。押し返してくる力はまったくない。ただ、柔らかく、温かく、受け入れるだけの唇がある。その無抵抗さが、ひろしの胸の奥を強くかき乱した。普段の遥なら、絶対にこんな距離を許さない。目が合っただけで視線を逸らし、廊下ですれ違っただけで足を速める。その遥が今、何も言わない。何も知らないまま、唇を許している。
「……遥……」
唇を離した瞬間、掠れた声が口から漏れた。自分でも意図していなかった声だった。遥の名前を呼ぶとき、いつもは胸の奥のどこかが痛んだ。呼んでも振り向いてもらえないとわかっているから。でも今は、そういう痛みではなかった。ただ呼んだ。それだけだった。
ひろしの手が、遥の肩へと移動した。細い。衣服の上からでも、力を入れればすぐに折れそうな骨の感触がある。眠る遥の身体を支えるように、ゆっくりと両手を添えた。遥の呼吸が、ひろしの手のひらに伝わってくる。胸が緩やかに上下するたびに、肩が微かに動く。その動きが、ひろしの手のひらを通して確かに届いてくる。生きている。温かい。自分が嫌いな兄の手に肩を掴まれていることも知らないまま、眠り続けている。
ひろしの欲望は、もはや下腹部の熱として確かに存在していた。三度のキスの衝撃が、全身に波紋のように広がっていた。これほどのものだとは思っていなかった。想像の中で何度も反芻してきた行為が、実際に経験すると全く次元が違う。遥の唇の柔らかさ。体温。吐息の湿り気。それらが今、ひろしの記憶の中に刻み込まれていた。消えない。もう消えない。
眠り続ける遥の唇が、まだわずかに湿っている。
その先に、ひろしがまだ触れていないものが、山ほどあった。細い首筋。ブラウスの合わせから覗く鎖骨。呼吸のたびに上下する胸。ショートパンツの裾から伸びた、白くて細い太もも。普段は絶対に意識することすら禁じてきた場所が、今夜だけはすべてここにある。誰にも邪魔されない、長い夜の中に。
ひろしはゆっくりと視線を遥のブラウスの首元へ移した。バイトの帰りに着替えるのを忘れたのか、それとも疲れて間に合わなかったのか、制服のままソファに沈み込んだ遥のブラウスは、胸のあたりで呼吸に合わせて緩やかに起伏していた。一番上のボタンだけが留まっていなかった。その隙間から、鎖骨のなだらかな窪みと、白い肌が薄い影を作っているのが見える。見てはいけないと思ってきた場所が、今夜は見放題だった。それでもひろしは、すぐには手を伸ばさなかった。焦れているのではなく、この感覚そのものを引き伸ばしていたかった。触れる前の、ぎりぎりの場所にいる今の緊張感を、もう少し味わっていたかった。
遥の首筋に、うっすらと汗が滲んでいた。アルコールの熱のせいだろう。バイト帰りの疲れのせいもあるかもしれない。その細い首筋が、間接照明の下で微かな光を帯びて見えた。脈が動いている。規則正しく、小さく、弱く。ひろしはその脈動を指先で確かめたいと思った。遥が生きていることを、直接手のひらで感じたいと思った。
ひろしは、もう少しだけ踏み込むことにした。
ここまで読んでくれてありがとう
選択を変えれば、結末は変わります。
別のルートを試すか、他の物語へ。



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